2021.6.14
福祉事業者のための「建築家の見つけ方」
「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト 2021」は、事業実施団体と設計者が協働することを申請条件としています。ここでは、福祉事業者が「建築家を見つける」ための方法をいくつかご案内します。掲載内容は、福祉事業者の方々にヒアリングした結果を整理したものです。ご協力いただいた皆様に、この場を借りてあらためて感謝申し上げます。
建築家を「知る」方法
知る - 1
まちを歩く
自分の目で、「まちに愛される建築やデザイン」について考えながら、地域をゆっくり歩いてみる。福祉施設に限定せず、自分のイメージに近い建築や気になる建物を見つけたら、運営者に話を聞いたり、設計した建築家について調べてみましょう。
知る - 2
メディアを活用する
新聞や雑誌、インターネットなどで、「福祉―建築」「支援―デザイン」をテーマにした記事が増えています。時代の流れや業界の動向を把握するためにも、複数のメディアにふれてみてください。個々の建築家について知りたいときは、検索サイトやSNSで調べましょう。ホームページで実績や得意分野を確認できることもあります。
知る - 3
福祉事業者に聞く
魅力的な福祉施設を運営する事業者に話を聞いてみる。建築家とのやりとりなど進め方について助言をいただくのもよいかもしれません。見学や視察の場合は、相手方に趣旨や相談内容を事前説明し、支援や運営の妨げにならないよう、十分にご留意ください。
知る - 4
紹介してもらう
つながりのある福祉事業者、関係機関、地域のコミュニティ、個人的な知り合いなど、さまざまな可能性にあたってみましょう。紹介依頼を打診する際は、理由や趣旨を丁寧に伝え、紹介者となる方に応じた適切な配慮をお願いします。
知る - 5
地域の「建築士会」にあたってみる
公益財団法人日本建築士会連合会のホームページで各都道府県の建築士会を案内しています。登録している建築士の一覧をサイトに掲載したり、電話相談に対応している建築士会もあります。そのほかインターネット上で、多くの建築家を紹介しているサイトもあります。
建築家を「選ぶ」方法
選ぶ - 1
とことん話し合えるか
対話やコミュニケーションを円滑に進めていける関係が不可欠です。それぞれの専門性を尊重しながら、お互いが納得できるまで粘り強く議論を繰り返していくこと。熱心な建築家は応じてくれます。
選ぶ - 2
ビジョンや目的に共感を得られるか
事業者が描くビジョンや果たすべき目的について十分な理解や共感を得られれば、軸となる方向性を見失わずに進めていくことができます。事業者側がそれらを明確に伝えつづけていくことも重要です。
選ぶ - 3
「現場」を重視できるか
法人の経営者や施設の管理者だけでなく、施設を利用する人たちや支援現場で働く職員の声に耳を傾け、また、地域の特徴やそこで暮らす人たちに目を向け、それを重視できるかどうかを確認してください。
選ぶ - 4
一緒にワクワクできるか
施設や地域の新たな「みらい」へ向かって、1つの「チーム」としてチャレンジしていけるような期待感をもてるかどうか。さまざまな課題や困難をともに乗り越えられるチームづくりをめざしましょう。
選ぶ - 5
費用やスケジュールについて詳細な説明があるか
多くの福祉事業者にとって、建築関連事業は不慣れな領域です。見積書や工程表のやりとりにおいても、事業者が判断するのに十分な情報が提示され、不明点は丁寧に説明してもらえそうかを確認しましょう。
たとえば……福祉事業者の声から
「“百聞は一見にしかず”で、よい建物を実際に観ることは大切だと思います。特に歴史的建造物には学ぶところも多く、温故知新で、町屋や美術館などを観るのもおすすめです。“ザ・福祉施設”ではなく、居心地のよい空間をつくって福祉サービスを提供する、というような頭の転換も求められます」
「建築家によって意匠や構造など得意な分野があると思うので、情報を収集することは大切だと思います」
「建築家が実際に設計した建築を見学して、さらにその建築家とやりとりを行った担当者とも話ができるとよいと思います」
「医療の経験しかなく、福祉事業の開設などまったくの素人だったため、建築に関する知識はゼロでした。好きな美術館の設計実績がある建築家にお願いしました。たまたま趣味が共通していたこともあって、人柄を理解しやすかったのも理由の1つです」
「先駆的な福祉事業者にアドバイスをもらうのもよい方法です。就労支援事業で飲食店を開設する際、福祉施設ではなく店舗の設計を得意としている建築家を探すよう助言があり、商工会議所やまちづくり団体などに建築家探しを相談しました」
「地元や都道府県内で、すでに建築事業を実施した実績をもつ福祉の法人や施設にアドバイスを仰ぐとよいと思います。特に、“大変だったこと”や、“いま思えばこうしておけばよかった”といった具体的なエピソードを聞けると、貴重な情報としてとても参考になります」
「自分がめざす“雰囲気”のお手本としていた建物のオーナーに、建築家や建築業者について相談しました。古民家の改修を考えていたので、地元で同じく古民家改修を行っている事業者から紹介してもらったのですが、当初は自分自身に確固たるイメージがない状態で依頼してしまい、一度は断られてしまいました。どんな事業を行いたいのか、そのためにどんな建物にしたいのか、まず自分自身のイメージを確立させておくことと、それを言語化して伝えられるようにしておく必要があります」
「地元で福祉施設の実績が多い建築家を紹介してもらいました。障害のある人や高齢者の当事者目線が必要ですし、ある程度の実績があるほうが事業を進めていくうえでのスピード感もあると思います。なお、たまたま同じ町内に住んでいたので、急なお願いや時間帯にもすぐに対応していただけました」
「法人理事長の同窓生(建築関係)を通じて2名の建築家を紹介してもらい、それぞれに法人のビジョンや支援目標、建築によって解決すべき諸課題を伝えて、イメージプランを策定してもらったうえで選びました」
「知人に紹介してもらった建築家の建物を見たうえで、本人に何度か直接お会いして、実現したいことやめざす支援などを伝えたところ、大変共感してくれ、その時点でアイデアもいくつか出してくれました。強い思いをもって参画してもらえそうだと確信し、依頼しました。自分の経験不足で、設計や施工の段階で多くの問題や混乱を招いてしまったこともありましたが、なんとか無事にかたちにできたのは、“思い”の部分を建築家としっかり共有できていたからだと感じています」
「こちらの思いや事業目的などに理解を示してもらえたこと、また、建築デザインのこだわりと徹底した予算管理のバランスがとれた建築事務所で、期待と信頼を感じることができ、決めました」
「地元志向で、かつ、デザインとコストの両立ができる建築家を、クチコミや人のつながりのなかから見つけました。建築家に丸投げせず、最初にイメージを共有して、議論を繰り返しながら、納得できる設計案をつくってもらいました。工事がはじまったあとにイメージと違う部分が出てきた際も、相談・協議して、設計の変更に対応してもらいました」
「できるだけ、若手や、話し合いを重視する建築家、また、現場に何度も足を運んでくれるタイプの建築家を選ぶようにしています。建築家からの指示や指摘を軸に進めていくのではなく、現場で働くスタッフとの対話のなかから建築をつくっていってほしいと思っているからです」
「カフェとギャラリーをつくる際、コンペによって建築家を選んだことがあります。3名の建築家にコンペ参加の依頼をして、最終的に職員全員の投票で決定しました。決め手になったのは、一緒につくっていく過程を大切にする姿勢でした。コンペを実施する場合は、建築家への依頼の仕方や費用に関する常識的な手順があるので、慎重に行う必要があります」
「これまでの複数の建築家とのやりとりを経て、いま思う理想像としては、事業者の意図、歴史や現在さらに将来への展望、社会の福祉的課題の現状などをふまえて、建築学的にも時代の一歩先を見据えながら、既存の建物や取り巻く環境とのマッチングも考慮した、総合的で創造的な設計を心がける努力をしてくれる建築家であり、そのために、事業者と時間をかけて話し合う意欲のある人、ということになります」
「福祉事業関連法規(ソフト)と建築事業法規(ハード)は、まったく発想が異なるのでとまどいました。建築上の制約によって、福祉事業の理念が変わったり、事業の内容が縛られてしまうのはナンセンスだと思いますが、建築物が提供する“場の力”も侮れません。福祉的発想と建築物のせめぎ合いが、新しいアイデアを生んでくれると感じています」
「建築家と話し合うなかで、自分の発想や見立ての甘さに気づかされたり、硬直化した福祉幻想から目覚めることもありました。建物の設計図よりも、自分がやろうとしていることの設計図を常に描き直すことが大切だと思います」
「ほとんどの福祉事業者は、建築に関する知識や情報はないと思います。見積もりを頼むにしても、どのような準備が必要なのか、どのような情報があれば依頼できるのか……などなど。建築事業における大まかな基本的手順が示されたフローチャートのようなものがあると助かりますね。また、自治体や民間にそういった相談ができる窓口があると、事業を進めるうえで心強いと思います」
「設計を開始する前に、全体のタイムラインをはっきりさせておくべきだと思います。また、工事請負契約や設計契約といった契約の手続きなどをあらかじめ知っておくことも必要です。見積書の中身をきちんと読めるようになると、さらによいと思います」
「設計がスタートしたあと、図面だけを見て建物を想像するのがとても難しく、実際に建物ができていく段階になって初めて気づくことが何度もありました。事前の話し合いのなかで、わかったフリをせず、疑問点や不明点を納得いくまで確認すべきだったと痛感しました。設計の協議段階で、模型を作ってもらってイメージとすり合わせるとか、実際の建設予定現場でサイズを体感するとか、曖昧にせずもっと詰めておくべきことがあったと反省も多くあります」
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