日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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医療法人観音会・屋久島ウェルネスセンターPJ 設計共同体|第2回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

※本事業は中止となりました

「第2回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:「屋久島おじゃんせウェルネスセンター」
■実施事業団体:医療法人観音会
■設計事務所:屋久島ウェルネスセンターPJ 設計共同体

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医療・福祉・介護が連携し、最期まで豊かに暮らせる場所をつくりたい

屋久島の診療所のすぐそばに、解体を控えた旧町役場がありました。その跡地をどうするかという話が出たのが2年前のことです。診療所の前委員長の方が「ここに拠点となるものを作りたい」と話してくださったのがきっかけで、住民のみなさんとの対話がはじまりました。

その後、私が診療所を承継することを決めて1年前に屋久島に移り、関係者を交えたフォーラムを作って、対話型で話し合った結果、今回の事業と申請に至りました。

屋久島という離島で診療をしていると、さまざまなニーズを聞きます。この地から離れずに最期を迎えたいと考える方の多さも知りました。そこで、医療・福祉・介護が連携し、最期まで自然の中で豊かに暮らせるようにするというビジョンを持って、健康拠点づくりを進めてきました。健康課題については保健所や町役場からも資料をいただき、診療所の過去の膨大なデータも参考に考えていきました。

環境を活かし、自然と共生する建築を目指す設計士に依頼したかった

設計チームの落合先生とは、5年ほど前、東京に住んでいたときに知り合いました。私たち自身もお互いのパートナーも、環境や自然、森などに関心を持っており、私は妻から「自然を意識した建築に、先鋭的に取り組んでいる建築家の先生がいる」という話を聞いて、会いに行ったのが出会いです。ですから家族ぐるみの付き合いですね。

落合先生の建築は、自然環境を十分に理解したうえで、それを壊さずに活かして人間の健康につなげる「健康的な建物」というコンセプトをお持ちでした。まさに屋久島にはそういった建築が一番ふさわしい、今回のプロジェクトには落合先生しかいないと思いました。

屋久島に通う中で、コンセプトに関わる自然のイメージを持ってもらった

イメージを伝える上で、屋久島に来ていただくことは重要でした。設計チームのみなさんにも、屋久島に通う中で自然の豊かさとその脅威、畏敬の念を感じていただくことができ、事業のイメージを共有できたかと思います。

また、具体的なアイデアを文章にするために、週1回は全体会議をオンラインで行っていました。申請が通ることを信じて、その後も案のブラッシュアップは続けていましたが、事業のイメージを共有できていたからこそ、オンラインでもブレずにさまざまなアイデアが出せたと思っています。

(事業者インタビュー:医療法人観音会)


福祉施設の設計を通じて、現代社会やコミュニティの実像が見えてくる

福祉施設を設計していると、現代社会やそのコミュニティの特殊な実像が見えてきます。これは個人の家の設計とは違う点で、非常に興味深く勉強させていただくことが多いです。また、福祉施設の場合は運営する側の要望がどうしても強くなります。使う人たちの視点にどっぷり入り込む難しさを感じますね。

例えば、素材1つをとっても立場によって評価は変わります。柔らかく人に優しい木を使うと、利用者にとってはいいかもしれません。ですが、それが運営者にとっては汚れやすくてメンテナンスが大変、使いづらいという評価にもなりえます。そのバランスをとるのは非常に難しいです。

オンラインでやりとりをするメリットもある

設計チームは東京、クライアントチームは屋久島におり、会うのが難しいので、SNSやZoomを使ってやりとりをしました。今回発見だったのは、SNSを上手に使えば記録にもなり、非常に気楽に話ができるということです。関わる人が多い今回は、むしろこういったやり方のほうが、設計をするのに適していたのではないかとすら思いました。

また、観音会の杉下先生の理解力や表現力、信念には、設計チームも助けられました。意見がブレることもなく、いろんな条件を杉下先生のほうからまとめていただけたので、非常にやりやすかったです。

建築のプロジェクトとは、多次元方程式を解くようなもの

建築の計画・プロジェクトとは、多次元方程式を解くようなものなんです。「何々はこうあるべきだ」「それはなぜならば……」という理由づけがあり、この理由づけが方程式の重みとなります。そんな方程式がたくさん出てくるのを、どう解くか。それが設計力であり、設計者の責任になるのだと思います。

どのような方程式を作るのかをしっかり共有できていないと、つくるものがどんどんブレていってしまうのではないでしょうか。プロジェクトの基礎となる考え方を、みんなで共有できていることが大切だと思います。

(設計者インタビュー:屋久島ウェルネスセンターPJ 設計共同体)

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