市原美穂氏(第3回 審査委員)|「さまざまなバリアを取り払って、今までにない事業を」
「第3回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において審査委員を務めていただく市原美穂さんから、公募にチャレンジされるみなさまに向けてコメントを寄せていただきました。
市原美穂(Miho Ichihara)
認定NPO法人ホームホスピス宮崎 理事長
一般社団法人全国ホームホスピス協会 理事長
1998年 老いても、がんになっても、障がいをもっても、家にいたいと思ったら帰れる地域づくり「ホームホスピス宮崎」の設立に参画。2002年より理事長。
2004年 空いている民家を活用してもう一つのわが家「かあさんの家」開設。住まいを中心に、医療、介護、生活支援が一体となったケアの体制をつくる。
2015年 一般社団法人全国ホームホスピス協会を設立。理事長に就任。
2021年 在宅総合支援「HALEたちばな」開設。医療的ケア児とその家族を支える短期入所や日中一時支援、カフェ、研修室など複合的な施設。「みつばち診療所」(小児科・内科・在宅医療)開設。0歳から100歳まで安心して暮らせるまちづくりを目指して活動を続けている。
賞罰:2015年「保健文化賞」(第一生命・厚労省)「毎日社会福祉顕彰」(毎日新聞社)
2018年「エクセレントNPO大賞」(言論NPO)
著書:「ホームホスピスかあさんの家のつくり方」「暮らしの中で逝く」「地域包括ケアシステム」共著他
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福祉と建築、立場は違えど目指す未来は一緒
福祉事業者のみなさんと設計者の方々が限られた期間で提案をまとめ、実際の図面に落とし込んで申請までたどり着くのはとても大変なことだと思います。その労苦に報いることを念頭に置いて、私たちも審査をいたします。
昨年、第2回公募の審査委員を務める中で、建築分野で活躍する審査委員の先生方の視点に触れることができました。単なる建物の設計やデザインの良し悪しにとどまらず、空間が及ぼす影響などの指摘が、福祉領域の人間として非常に参考になりました。福祉と建築、両方の立場から審査をすること自体がはじめての経験でしたので、学ぶことが多かったですね。
建築においては、空間や地域の環境まで考慮する。福祉では、地域社会の中で暮らす人、居る人、働く人が、より良く生活できるようになるにはどうすればいいか考える——それぞれ立場は違うように見えますが、審査のための土台は一緒だと思います。
医療や福祉が混在する、地域社会を支える仕組みが必要
現状、児童福祉と医療福祉、障害福祉はすべて縦割りで管理されています。このやり方ではどうしても、ニーズが叶えられない人たちが出てきてしまいます。だから今「地域包括ケアシステム」という、地域においてさまざまな職種の人たちが連携して利用者を支える仕組みが必要とされているのです。
「地域社会」というのは、高齢者も大人も子どもも、障害のある人たちも、大勢の人がごちゃまぜになって暮らしているところです。ですから地域の福祉施設も、それを体現するようなものであってほしいと思っています。本プロジェクトにとって、それが非常に大事な要素になってくるでしょう。
実際に第1回・第2回の公募で採択された団体は、まさに医療も福祉も混在した事業を提案されていました。それに加えて“みらいの”福祉施設建築プロジェクトですから、みなさんの夢も一緒にのせて、ぜひ前例のない事業にチャレンジしていただきたいと思います。
30-40年後の“みらい”に向けて、わくわくする拠点作りを
いま、日本社会の人口構造は転換期を迎えています。子どもの生まれる数が減って高齢者の割合が増え、人口規模が減少していきます。これから先、30〜40年後にはどのような社会になっているのでしょうか。
これからは、本当に多様な人たちが一緒に暮らすことができる地域社会が必要になると思います。ですからみなさんも、自分たちの専門領域に閉じてものごとを考えるのではなく、地域社会に出て、あらゆるバリアを取り払いながら事業を展開していってください。
時代の行き先を考えると、どうしても暗いイメージが先行してしまうかもしれません。それでも申請者のみなさんにはぜひ、多様な人たちがワイワイと集まって、わくわくできるような福祉施設を提案していただきたいなと思います。
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