橋本達昌氏(第3回 審査委員)|「建築デザインは、ケアそのものの質やセンスに直結する」
「第3回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において審査委員を務めていただく橋本達昌さんから、公募にチャレンジされるみなさまに向けてコメントを寄せていただきました。
橋本達昌(Tatsumasa Hashimoto)
社会福祉法人越前自立支援協会 児童家庭支援センター・子育て支援センター・里親支援機関・児童養護施設 一陽 統括所長
1990年 中央大学法学部法律学科卒業と同時に越前(旧武生)市役所に入庁、2009年の退職までの期間、主に福祉行政を担当。
2006年 仲間とともに社会福祉法人越前自立支援協会を立ち上げ、2011年 児童養護施設を創設。
その後 2013年 児童家庭支援センターを、2015年 子育て支援センターを開設し、現在、社会的養育にかかる多様な地域子ども家庭支援を展開中。
編著に『地域子ども家庭支援の新たなかたち』(生活書院、2020)、『社会的養育ソーシャルワークの道標』(日本評論社、2021)
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「建築」が福祉施設の風土や理念に与える影響とは
私は2022年より福祉事業者の立場で本プロジェクトに参加し、本当に多くの学びを得ました。 福祉施設というものは固有の風土や理念に基づいて建設されるとばかり思っていたのですが、むしろ建築物が施設の風土や理念に強い影響を与えていくこともあり得る——その可能性を知れたことがとても大きかったです。
福祉自体も高齢者福祉、障害者福祉、児童福祉など、さまざまな領域にわかれています。本プロジェクトに参加することで、それぞれの領域における先駆的な福祉施設建築とはどのようなものか、実際の提案に触れることができて大変勉強になりました。
審査においては、事業の物語性・具体性・新規性を重視
審査にあたり、私が大事にしていたことは3点あります。1つ目は、事業の物語性です。その事業がこれまで辿ってきた経緯、その施設を建築することの必然性などがはっきりしていて、共感できるストーリーが見えるかどうかに注目していました。
2つ目は、事業の具体性です。事業による成果やベネフィットが具体的に明示されているかどうか、ですね。例えば、働く人に対する報酬がこれだけ上がる。利用者のアメニティがこのように増すなど具体的に明記されており、その実現性が高いと思われるものに高い評価をつけました。
3つ目は、新規性・斬新性です。具体的には組織運営において地域に開かれており、地元自治体をはじめ、他の機関と連携できているかという点を重視しました。言い換えれば、周りのステークホルダーを巻き込む力があるか、その業界における“切り込み隊長”になり得るかを評価させてもらいました。
建築デザインは、ケアそのものの質やセンスに直結する
これからの福祉施設は地域住民の誰にとっても「使われやすいもの」になっていることが大切だと思います。現状として、施設側が「地域に対して開いている」つもりになっていても、地域住民側からするとまだまだ閉鎖的で入りにくい、と思われていることが多々あるでしょう。今後それをどうクリアしていくかが、工夫のしどころではないでしょうか。
私は、自分が運営する児童養護施設を集団生活の場から家庭的な居住空間に変えることで、そこで暮らしていた子どもたちの心身に劇的な変化が起きる様子を、目の前で見てきた経験があります。生活の場の構造や彩り、雰囲気、匂いなど、空間が利用者に与える影響はとても大きいものなのです。そうした意味で、福祉施設における建築デザインの質やセンスは、ケアそのものの質やセンスであると確信しています。
このプロジェクトへのエントリーを、みなさんの住む地域を変え、時代を変えていくための契機にしてほしいと思います。
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