日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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個性あふれる「みらいの福祉施設建築」が採択され、それぞれのプロジェクトが始動[第4回 表彰式レポート]

Photo:内田麻美 Text:大島悠

2024年6月に公募を開始した「第4回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」は、審査の全工程を終え、助成対象となる事業を決定しました。2025年3月4日(火)、審査委員と事業実施団体の代表者を招いて表彰式を実施しました。本記事では式の様子をお届けすると共に、採択された3つの事業をご紹介します。

中心市街地にて、障害者グループホームとシェアハウスを併設

作品名:スキップフロアによる障害者グループホームの地域拠点化 たけし文化センター田町
事業実施団体:特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ
設計者:株式会社坂茂建築設計
設計デザイン案登録番号:NFP0006


クリエイティブサポートレッツは、特に知的に障害のある人の社会的自立を目指し、すべての人が「ちがい」を乗り越えて共生できる社会づくりを行う特定非営利活動法人です。静岡県浜松市の市街地に重度の知的障害がある人たちの文化発信拠点をつくるなど、全国的にみてもなかなか例がない取り組みに挑戦しています。

今回の計画は、静岡県・浜松駅から徒歩10分ほどの中心市街地に、障害者グループホームと、一般向けのシェアハウスを併設した7階建の建物を建築するというもの。大きなキッチンや大浴場などの共用設備を施設内に点在させることで、利用者以外の人たちと交流する起点を多数設けています。

これまで障害者向けの施設の多くは、郊外に建設されてきました。本事業ではその課題と向き合い、拠点の敷地にあえて地方都市の中心市街地を選択。立場の異なる人たちが集い、交流できる場所を地域にひらいていくことで、福祉を軸とした「まちづくり」につなげていく取り組みです。

事業者コメント

新しいプロジェクトに取り組もうと決めたきっかけは、コロナ禍で街の様子が大きく変わったことです。社会の流れや人々の気持ちが変化していくのを感じる中で、次の拠点づくりに着手することにしました。中心市街地に障害者を連れてきて共に暮らすことは、本来は当たり前のことだと思っています。この拠点が無事完成したら、日本ではなかなか類を見ない施設になるはずです。本当の勝負はここからだと考えていますが、むしろ大きなチャレンジに今からワクワクしています。(特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ)

設計者コメント

はじめに構想を聞いたときから、きっと楽しい場所になるだろう、という感覚がありました。一般的な建築物では、なかなか使わない設計を取り入れている部分もあります。とはいえ、まだ十分に形にできていない要望もあるので、引き続き検討を重ねていきたいと考えています。レッツさんのこの取り組み自体が非常に新しくチャレンジングなプロジェクトですので、建築がそのパワーに負けないように取り組んでいきたいと思います。(株式会社坂茂建築設計)

 

自然豊かな敷地をゆるやかな「道」でつなぎ、地域共生の風景をつくる

作品名:きどのイドバタ -風景と人の交わる”きどのミチ”-
事業実施団体:社会福祉法人薫英会
設計者:teco株式会社
設計デザイン案登録番号:NFP0008


薫英会は群馬県吉岡町を拠点とし、およそ50年近くにわたり地域の福祉を支えてきた社会福祉法人です。主に高齢者と障害者を対象とした福祉事業を中心に展開しており、「障がいがあっても高齢でも大人も子供も楽しく暮らせる社会」の実現を目指して活動しています。

今回の事業計画では、そんな法人としての理念を体現しました。住宅街に近く、農地や自然の風景などが交わる木戸地区の緩やかな斜面を計画地として、放課後等デイサービス、看護小規模多機能型居宅介護、認可型小規模保育の施設を、公園から続くゆるやかな「きどのミチ」でつなげる試みです。

さまざまなケアサービスを利用する人たちとその関係者、地域の人たちが、散歩の延長などで出会い、関わり合うことを想定して設計されました。地域の福祉を担う新たな拠点として、また地域における「共生」の風景をつくりだすことを目的としています。

事業者コメント

私たちとしては「新しいプロジェクトに挑戦した」という感覚ではなく、地域で暮らす人たちが感じているさまざまな日常の課題を解消するため、日々の活動と地続きの中で考案した施策の一つだと捉えています。現時点では、私たちはひとまずタネを撒いた状態にすぎません。この場所を育てていくためには、私たちだけではなく地域の人たちにも能動的に関わってもらうことが大切だと考えてます。多くの応援をいただいて、身が引き締まる思いです。(社会福祉法人薫英会)

設計者コメント

はじめて吉岡町を訪れたとき、街自体がとても穏やかな地形の中にあると感じました。今回はその自然の風景と共にある、おおらかさのある建築に挑戦したいと考えて設計に取り組みました。「福祉施設はこういうもの」という先入観を取り払い、日常の延長にこうした暮らしの場所がある、ということに一度立ち戻って、これから地域の人たちと、福祉に対する認識を変えていくことが大切だと考えています。みなさんと一緒に成長しながら、さまざまなできごとを受け止められるような活動になることを願っています。(teco株式会社)

 

必要とする人のもとへ福祉を「届ける」サテライト型の新たな拠点

作品名:届ける福祉「みらいの家」
事業実施団体:社会福祉法人中央福祉会
設計者:千葉学建築計画事務所
設計デザイン案登録番号:NFP0045


中央福祉会(映寿会みらいグループ)は、石川県金沢市で活動する社会福祉法人です。医療施設の他、介護施設や子ども向けの福祉サービスを多数運営しており、地域の医療機関と連携しながら、40年以上にわたり地域医療および福祉に貢献してきました。

今回の事業計画は、地域の中でも特に高齢化率が高く、かつ一人暮らしの高齢者が多いエリアにサテライト型の福祉施設を建設するというもの。住宅地の中に溶け込むように新たな拠点を設け、人が「生きること」に必要なきめ細かなケアを提供します。

この「みらいの家」では、地域密着型の通所介護施設、訪問介護事業所の他、地域包括支援センターなどの役割も果たします。また駄菓子屋などの売店を併設し、子どもたちをはじめとする地域の人との交流を生み出すことによって、制度の枠組みにとらわれない多面的な支援を行う福祉の“ハブ”となることを目指します。

事業者コメント

今回、3回目のチャレンジで採択いただきました。現状、多くの福祉施設は利用者のみなさんに「来ていただく」ことを前提としてつくられています。しかし私たちはそうではなく、自分たちが街の中へと出ていき、必要な福祉サービスをみなさんに届けていこうと考え、今まで検討していた事業プランを大幅に見直しました。今回の拠点で計画しているさまざまな活動を通じて、地域で暮らす高齢者のみなさんたちがよりハッピーに過ごせるよう、まずは一歩、二歩と前に進んでいきたいと思っています。(社会福祉法人中央福祉会)

設計者コメント

今回のプロジェクトに共に取り組む中で、これからの福祉施設はどうあるべきか、ゼロから議論を重ねてきました。高齢者や子どもたち、障害者へのケアは、かつて地域のコミュニティやそれぞれの家で行われていたものだと思います。そう考えたとき、中央福祉会さんが実現を目指す「届ける福祉」というコンセプトに深く共感しました。実際の運営には引き続き試行錯誤が必要だと思いますが、新しい形の福祉施設として、地域の人たちの日常にどれだけ浸透していくか、チャレンジしたいと考えています。(千葉学建築計画事務所)

 


審査関連情報

審査委員総評・講評
審査委員による各事業に対する個別の講評は、公式サイト「結果発表」コーナー(第4回アーカイブ)に掲載しています。合わせてご覧ください。

各事業者プレゼンテーション(最終審査会 動画アーカイブ)
2024年12月に行われた最終審査会(各団体のプレゼンテーションおよび質疑応答)の様子は、以下より全編ご覧いただけます。
第4回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト最終審査会(プレゼンテーション)


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