日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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【後編】みらいの福祉施設建築フォーラム報告

テキスト: 馬場未織 / 写真: 川島彩水

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パネルディスカッション3
みらいの福祉施設をどのように実現するか

ファシリテーター

  • 公益財団法人日本財団公益事業部国内事業開発チーム 福田光稀

ゲスト

  • 横浜国立大学准教授、フジワラテッペイアーキテクツラボ主宰、建築家 藤原徹平氏
  • 社会福祉法人越前自立支援協会常務理事兼事務局長 橋本達昌氏
  • 成瀬・猪熊建築設計事務所 代表取締役、建築家 成瀬友梨氏

■登壇者自己紹介

福田光稀(以下、福田) 日本財団の公益事業部、国内事業開発チームにおります福田と申します。福祉の様々な分野で助成事業を担当してきまして、みらいの福祉施設建築プロジェクトの立ち上げから企画・運営を行っております。

福田光希

成瀬友梨氏(以下、成瀬) 成瀬・猪熊建築設計事務所の成瀬と申します。人がシェアする場をどうやって作るか、どう満たすかをテーマに設計事務所をやっておりまして、そういったことを気に留めていただいて、第一回の審査委員をやらせていただきました。

成瀬友梨氏

橋本達昌氏(以下、橋本) 福井県越前市から来た橋本と申します。私の勤める社会福祉法人越前自立支援協会は、児童養護施設、児童家庭支援センター、子育て支援センターを運営しています。虐待や貧困、保護者の病気などの事情で家族と暮らせない子どもたちと一緒に生活をし、彼らが地域に戻ったときにも幸せに暮らせるよう訪問 支援などをおこなっています。平成18年に社会福祉法人をつくり、平成23年に一陽という施設をつくりました。そういう意味では、これから新しい社会資源をつくろうとしている皆さんと同じ立場です。

橋本達昌氏

藤原徹平氏(以下、藤原) 横浜国立大学で教えながら、自分の設計事務所もやっています。また一般社団法人で、アートを起点に他領域をつなぐ アートのまちづくりみたいなこともやっています。
福祉については、 15年働いていた隈研吾さんの事務所でいくつか福祉施設の仕事を担当したのと、独立後も病院や児童養護のプロジェクトに関わっています。私自身、どうしたらみらいの福祉がつくれるのか日々悪戦苦闘している状況でして、応募する建築家の皆さんと考えていることや姿勢は似ていると思います。

藤原徹平氏

福田 みらいの福祉施設建築プロジェクトは今回含め3回実施しています。
第1回は、審査委員長が工藤和美さん。審査員には成瀬さんも入っていただきました。472事業の申請をいただき、結果、採択に繋がったのが6事業です。その内の一つが今日のパネルディスカッション①にあった「深川えんみち」のプランです。
第2回は、審査委員長が坂茂さんでした。橋本さん、藤原さん、今日パネルディスカッション1で出ていただいた栃澤さんにも入っていただいて審査しました。292事業の申請をいただき、3事業の採択をさせていただきました。
第3回を今募集しており、申請締切りが2023年9月15日金曜日です。審査委員長が建築家の古谷誠章さんに変わりました。

■審査員の視点、着眼点

福田 まず、審査のことを振り返っていきたいと思います。皆様はそれぞれどのような視点で審査したか、教えていただけますか?

成瀬 第1回のときは、この企画自体が初めてで審査側も手探りでした。福祉の審査委員の皆様がまず応募作品を全て見てから絞られた後に、建築の審査をしました。そこで選考に残った20作品のプレゼンテーションを聞かせていただきました。

福祉の取り組みとしては評価に値し、社会的インパクトも大きいだろうというものでも、建築のデザインが追いついていないものがいくつかありました。すると福祉の審査委員の方から「でもこういうところが良くて。なかなかなくて」と言われ、「お〜」と押されたりするというやりとりもあり、結構悩んで審査しましたね。
これは「みらいの福祉施設を見つけよう」というプロジェクトですので、地域の人も誇りに思えてここで働きたいなと感じる質を期待するという観点で議論したのを覚えています。

採択された事業は、事業者の方と設計者の方の信頼関係があり、意思疎通ができているチームでした。なんなら建築家がいらないくらい事業者が設計のことを話せるのです。そうした事業者は空間の生かし方を充分に理解した上で可能性を押し広げて使っていくだろうなと思いました。
建築家が良かれと思って設計していても、空間のよさや可能性を理解してもらえていないと、事業提案と空間が何かちぐはぐに見えたりします。それは5分という短いプレゼンの中でも分かってしまうんですよね。

また、どの案についても「これはどういうところに建っているんだろうね」という話をしていました。みんなで住所をGoogle検索してストリートビューで歩いて、立地などを確認し、もう1回議論することもありましたね。限られた紙数ではありますが、どういう地域につくるのかをもう少し説明してもらえたら、審査の解像度が高まるなあと。

藤原 第2回は審査プロセスが変わり、先に建築の審査があったので全部に目を通すのが大変でした。が、建築は図面を見れば、ある程度は瞬間的にそのレベルや理念が分かりますからこの順番が良いのかもしれません。
審査委員長の坂さんが見る前に僕と栃澤さんで会議室に図面を広げて下選びしました。その後、福祉の先生方が審査し、そのプロセスを後で聞かせていただきました。福祉の施策は戦後にできあがってきて、福祉それぞれの領域ごとに歴史が重ねられてきて、未来に向かってどう福祉の質や領域を広げられるかが課題と言うことがよくわかりました。そうした観点ではどんなに空間が良くても「もっと未来志向でないと日本財団がこれほどのお金を出す意義がない」など福祉の審査では点数が低くなることもあり、なるほどと思いました。

最終的に総合表を見ながら、どうしても残したいもの、残せないものをみんなで見ていきました。例えば幼稚園なのに北側居室はなしだろうとか、この中廊下式の施設はコンセプトと空間が違うといった具体的な話が出ます。福祉の先生方に「こういうプラン以外もあり得るんですか?」と聞かれ、「あり得ますよ」といった話もあり、最終プレゼンに出る人を20残せず、12事業になってしまったんですね。

もう一つ、当初の要項にはありませんでしたが最終審査では模型を持ってきてもらいました。これだけの助成を受けて、30年40年その地域に立ち続けるものなので、模型を中心に議論ができたらいいなと提案した次第です。

今年は助成率が変わり、事業費の上限がなくなりましたよね。ものすごく大きな都市計画的なものから、街のスケールにあったものまで選べるようになっています。去年は前年から金額が増えたこともあり、プロジェクトの性質やチームの能力に関わらず 規模が大きくなってしまった部分がありました。それを避けたいのかなと感じました。 昨年の審査では、地域の公共的な福祉を担っている事業者であるかどうかが問われました。行政は「地域福祉計画」などを立案します。 ただ結局実施するのは福祉団体の皆さんなので、皆さんの担う地域福祉はすなわち“都市政策”なのだと思います。建築家はそれをどうやって空間的に実現するか。みらいの福祉を審査するというのはそういう地域の未来像を考えることなんだなと、徐々に審査委員団の中でわかってきたわけです。

福田 審査プロセスが変わったことをご説明しておきます。第2回より、募集要項にもありますが、先にA2サイズの設計デザイン案を先に審査し、その後に、事業団体の資料を審査させていただくという流れです。申請を1件1件きちんと見るためにはどうしたらいいかを考えた上での変更です。

一次審査でプランをぱっと見た時、どういうところに着眼して選定しているのか、具体的に教えていただけますか?

藤原 昨年は最終判断する審査委員長の坂さんは空間が強くないと駄目なんだとおっしゃっていました。そのときに、建築の強さって何なのかなというのを考えました。単に目立つとか話題になるではなく、その街にその建物が建つことで、地域の中心性が回復することではないかと僕は理解しました。そこで、地域にとって一番大事な“場のあり方”を建築側がどう捉えようとしているのか、建築デザインが、 ずれることなくそこに向かっているかをまず見ました。ですから、敷地内だけで考えているようなものは評価の対象から外しました。たとえCGがしっかり描かれ、空間が魅力的であってもです。

もう一つは、プログラムですかね。栃澤さんと意見交換しながら、児童養護でこういうことをやってるとすごいなとか、小児医療でこれはなかなかないよね、など。地域の課題に向き合い自身を変えようとするプログラムがあり、それを建築計画でちゃんと書けているかを見ています。

福田 設計デザイン案を見て、「事業者と設計者が全然話してない」「内容が浅い」などとおっしゃっていた時、そこまでわかるのかと結構びっくりしました。

藤原 ある程度設計をやってる人が見ればわかると思います。言葉や計画が上すべりすることがあるからです。たとえば、福祉は特に現場の意見がすごく重要で、トップと建築家だけで盛り上がって設計案をつくっても、実際現場で見ている人が「全然使えなくて困る」「私1人でこれとこれを見ることになるんですけど、無理です」と一瞬で否定されることがよくある。運営や更新の視点が欠け、最初は良いが、そのまま建ててしまいひどいことになる、というのは日本の建築家が手掛けてきた福祉プロジェクトのあるあるです。 運営との議論が感じられない案に対して助成金を出すのは避けたいと思いました。

橋本 審査時は、建築の審査委員の方々とも、専門分野の異なる福祉の審査委員の方々とも、立場の違いから言い合いになることはありませんでした。それは共通した観点があったからです。

一つ目は、物語性です。これまでの経緯や課題が明快に分かり、今回の助成金でこの建築ができたらどう変えられるかがはっきりわかる。そこに物語性があるほど、我々の心を打ったなと思うんです。施設の建築に向けた確固としたストーリーがなく付け焼刃の話をされても、分かってしまいます。「5億円当たればラッキー」と思って申請してきたなという人達が少なからずいて、それは見えちゃいますね。

二つ目は、具体性です。例えば、障害者福祉施設ができて新しい事業が稼働したら地域の平均工賃の1.5倍になる、こんなアメニティが提供できれば子どもたちにこのような養育ができる、お年寄りの暮らしが変わる、といったことを具体的に示せているプランが採択されています。逆に、5億円使って授産施設をつくるけれど工賃は変わりません、だと厳しい評価となっていました。

三つ目は、新規性です。ファーストペンギンとして天敵がいるかもしれない海に最初に飛び込むような計画かどうか。ソフト面で言うと、1トップのオーナーが勝手に夢を追いかけているプランではなく、利用者や周辺住民、介護者やその家族、働く人達、関係する他の法人や行政も巻き込んでいろんな意見を吸収しているかどうかです。ハード面でもその領域についてトップランナーとして新しいことにチャレンジしているかを見ています。

■プロジェクトに応募する意義と課題

福田 特に大きい規模になると法人内部での意思統一が難しいこともあると思います。中心となって計画されている若手の方に理想や熱意があっても、経営層との軋轢が生じることもあるかと。どうすればいいでしょうか?

橋本 たとえば児童養護の現場でも、「子どもの幸せが大事」とみんなが思っているんです。でも新しいことがやれない。そんな時、建築のプランについて話し合う場面があるとステークホルダーを含めた多様な立場の意見を突き合わせられます。コンセントの位置、遊び場のあり方など、具体的にモノをつくるための議論を通じて「我々は次のステップでここにいきたい」というミッションが明確になっていくのです。この助成金に応募するしないは別として、すべての法人がこのようなモノづくりの議論をできるだけ多くの仲間と、しかも可能な限り具体的にしていくと面白いのではないかと思います。

福田 財団にも「不採択だったけれど新しいことを考えることが出来た」「良い経験の機会をいただきました」というご連絡をいただくことが少なくありません。
逆に、悩んだところ、意見が割れたところというのはあまりなかったですか?

藤原 短期間で考えた思いつきや付け焼刃的な案が多いことは気になっていました。ただ同時に、設計事務所の負担も大きくなるのではと心配もしています。理想的には、構想段階に対してちょっとでもお金が払われると社会としてより良くなるのかなと。構想という知的作業に対し、事業者としてお金を工面するか考えることが大事ですし、建築家も構想にどこまでリソースを割けるのかを示し、互いに議論しながらやっていくと、宝くじ的にはならないのかもしれません。

このコンペのいいところは、設計料を国交省の告示を基準にしてくださいと書かれているところ。地方自治体でもそれ以下の金額で平気でコンペをかけますから、専門性についてどう考えているのか心配になります。そこをしっかりしてくれるのはありがたいと、建築家としては思います。

そして応募案は何百も出てくる必要はなく、事業者と建築家がしっかり未来を見据えて計画を描いてきたものが20出てきて、20通るでもいいと思います。きちんと事業を考えてる人をきちんと審査できる仕組みになればということになり、 今年は試しに、A 2サイズの設計デザイン案を2枚にしています。

福田 助成対象は基本設計からであり、それは助成契約前でも遡って助成対象となるよう計らっています。その手前の基本構想、基本計画は助成対象にはなっていませんが、設計者の方々が労力をかけている部分であり、契約関係に基づいてきちんとお支払いをされた方がいいかもしれません。また、設計者側もそのあたりを明確にご説明されると福祉事業者側も分かりやすいと思います。無料ということであればそれで、と素人の立場だと思ってしまうところもあるので。

■「みらいの福祉建築」とは何か

福田 未来志向的な話をしたいと思います。タイトルに「みらいの福祉施設建築」とありますが、「みらいの」とははっきり定義づけできない難しいテーマです。審査している中で、皆さんはどういうところに「未来感」を感じましたか?

成瀬 最近でこそ福祉施設が建築の専門雑誌にも取り上げられ、まちにひらかれた提案も目にしますが、それでもまだ福祉施設は、建築のイメージがあまりないです。
そうした中で未来的だなと思ったのは、例えば私が審査したときにあった、北海道の農場の中のレンガの建物です。まるで農場の中の小屋みたいな優しい建ち姿で、介護の相談などの用事がない人も来られるというプログラムどおり、誰でも遊びに行きたいなと思うような見え方をしていたのが魅力的でした。

また、1980年代に建てられた魅力的とは言えない施設型の建物の老人ホームを、丁寧にリノベーションされて、地域の人が中に入ってくる街のような建築に生まれ変わらせている案がありました。私たちが今生きているまちの中にはすでに建物がいっぱいありますので、それをいったん受け入れて使う発想は大事なことだなと思っています。

橋本 私も地域に開かれているものに“未来感”を感じました。1年に何回か祭りをやって、職員が一生懸命、たい焼やたこ焼きを焼いて、地域の人に無料で配って「地域交流していますよ」とアピールする福祉施設が多いけれど、その他の364日はどう地域と繋がっているかを意識してほしいですね。これができたら地域の人はどんどん来るだろう、いや自然とこの中に地域の人がいるんだろうなと思える建物、あるいは構想に“未来感”を感じました。

藤原 去年は確かに「みらいの福祉」と何か、が常に議論の中心にありました。
一つ目は、複合化。福祉というものが地域にある何かと混ざっていくことです。産業と混ざる、環境を取り込むなどの中に今までにない未来があるのではないかと話されました。

二つ目が法律の話です。国側も未来に向かって法律を思い切って変えつつある中で、福祉事業を行う法人の応答が、法の理念に追いつけていない現状がある、と福祉領域の専門家の方々から言われました。障害者の作業所は“大人の保育園”みたいな立場ではなく、むしろ地域の重要なエンジンにもなりえるということや、障害者を様々な才能や可能性を秘めた1人の存在として扱うという方向性に対し、それを福祉側も建築家もまだ理解できていないという話が刺さりました。つまり、法律が提示している未来を具現化できていないという意味での「みらい」の話です。

三つ目が、空間の転用です。昨年も実現したら障害者支援から街が変わっていくだろうという本当にいい転用の提案がいくつかありました。パチンコ屋が変わって、福祉と医療の場になっていくとか、未来をすごく感じました。三つ目で触れたものも含めて、通したくても通せないものがありました。理由としてまず人です。人の組織が整っていないものにお金をあげるのは無理だからです。建物は建てたら建てただけ手がかかる。5億円の建物を建てたら5億円分の光熱費と、維持管理費と修繕と、それを運用するスタッフの組織が必要です。その核が見えないところに出すのはやめようという議論がありました。
もうひとつは空間です。それだけ福祉が変わろうとするときに、単なる施設的設計では到底無理です。福祉事業もやりながらまちづくり的なこともやっていこうとすると、場の働きを兼ねて空間をもっと効率よく、合理的につくらなければならない。建築家の実力がより問われるため、そこも厳しめに去年は見たかなと思います。

理念の問題としての“未来のあり方”もありますが、それを成り立たせる人的組織と空間的な計画を総合的に考えないと絶対実現できないということかなとも思っています。

■質疑応答

「審査委員の構成によって、採択されるものが変わる、あるいは違う年だったら同じものが採択されていただろうといったことはありますか?」

藤原 審査委員としてはできる限り公平でありたいと思い臨んでいますが、人間が審査するので、絶対あると思います。だから審査委員はずっと同じ人がやり続けるのは良くなくて、2-3年交代にする。継続性も大事ですが変わることも重要かなと。
また、この補助金以外にもいろいろありますし、何か一つの助成金を目標にするのは違うのかなという気もします。逆にこのプロジェクトを、空間的問題と事業的問題を議論するきっかけにできれば一番いいと思います。

「採択されたら着工は2年先くらいになるのでしょうか? パネルディスカッション①で、2年前の採択事業が今スタートするというお話があったので。私どものステークホルダーに地域の林業の方がいて、ぜひ地域の木を使って欲しいという話の広がりがあり、スタートする時期が2年後であればより多く地域の木材を集められると思った次第です」

福田 財団の助成事業の基本は単年度ですが、理由があれば事業延長できます。今の時点でもし計画が固まっていればご申請いただけると思いますし、まだ具体的な計画にならないということであれば、申請のタイミングをご判断いただくといいと思います。
第1回の採択事業は、まだ着工してないものもあります。ご存知の通り、今建築資材の高騰で入札が不落札になるなど、皆さんご苦労されています。

藤原 国交省などの補助金に比べればかなり融通が利きますね。

福田 融通は利きます。

「木造建築にしたいのですが、山にある木を切って木材を乾燥させるなど考えると、採択いただいても来年4月から1年間でやれますかと言われると難しいです。実際木材を使うと時間がかかる、ということを鑑みていただけるのでしょうか?」

福田 1年でやってくださいとは言いませんので、安心してください。事業期間に関しては柔軟です。

藤原 人工乾燥ではなくて、天然乾燥でやりたいということですね。逆に言うと、それをちゃんと生かした建築の提案になっているかが問われますね。これなら人工乾燥でいいのに、みたいなことになっていなければ。建築側の思いだけが暴走せず、その意義を福祉や地域に関わるみんなが中心においてくれればいいですね。

福田 最後に、未来志向なコメントを一言ずついただければと思います。

成瀬 設計者の立場で審査をしていて思ったのは、建物の設計が惜しいなという応募が本当に多かった、ということです。福祉事業者の皆様には、ぜひいろんな設計事務所に会いに行っていただければと思います。よさそうだなと思った人のつくった建物を何でもいいので一緒に見に行き、話を聞いて、この人とだったら一緒にいいものが作れそうだなという設計者と出会う、というところを大切にし、 時間や労力をかけて いただけると、いいものができるのではないかと思います。

橋本 確か第2回のときも、1回目はダメで2回目採択されたというところがあったと思うんですね。2年、3年かけていろいろな関係者と「近未来像としてこういうものをこの地域に残したい」と語り合う、そのためのツールにしていただければいいなと思います。それぞれの立場や考え方 の違いこそがむしろ力になるという発想に基づく建物が、その地域を変えていくと思います。ぜひそのあたりを横着せず、省略せず、丁寧に議論していただけるといいかなと思います。

藤原 実は僕、第1回に出そうと思っていましたが、結局クライアントと話しあって出さなかったんです。その児童養護のプロジェクトが最近上棟し、すごくいいものになってきています。未来の子どもたちの場をどう作るかを議論しながらやっている中で、福祉は本当にこれから重要なものになってくると実感しています。

昔は高度経済成長や発展が未来だったと思うんですけれど、どうもそうじゃない、お互いを尊重して豊かな社会を築くというのが本当の未来だなということが社会全体で共有できる時代になってきています。そこで法人や建築家がともにみらいの地域のあり方を考えていくことが重要で、国も大学も財団もいろんな形で支援して、一歩でも二歩でも進めていければと思っています。このプロジェクトはそのエンジンになるので、僕も審査委員として今年も協力します。ぜひ皆さんも未来を見据えたプロジェクトを出していただき、10どころか20ぐらい通さないといけない事態にさせていければと思います。

福田 今日はありがとうございました。

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