日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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社会福祉法人丹緑会・合同会社わくわくデザイン|第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

「第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:「地域の一部となれ」
■実施事業団体:社会福祉法人 丹緑会
■設計事務所:合同会社わくわくデザイン

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地域の人が行き来する場で、入所者も能動的になれる生活をつくりたい

私たちの事業は大規模な特別養護老人ホームで、3期に工事が分かれています。今回申請したのは、その3期目の工事です。事業計画自体は、平成28年から行ってきました。

設計者である八木さんと知り合ったのは、平成25年のことです。栃木県の介護付き有料老人ホームの整備事業に参加した際、紹介いただいたのがきっかけでした。

我々の考える「暮らし」とは、子どもや働き盛りの人、地域の人も行き来する、普通の町のような場。入所者の方がただ介護を受ける存在になるのではなく、役割があり、能動的に人のために生きられる生活をつくりたいと思い、今回の事業について考えはじめました。

人々が自然と交わる空間にし、「やりたい」を引き出すきっかけのある環境づくりをすること。そして利用者が元気になる介護施設にすることには、徹底的にこだわりました。

設計者には、「なぜそれをやるのか」を丁寧に共有する

丹緑会では、利用者やその家族、地域住民やスタッフなどをとても大切にしています。そういった「人」を主語にして話せたのが、八木さんに設計を依頼する一番の決め手でした。2か月ほど連日のようにあったオンラインの打ち合わせも、ずっと楽しかったのを覚えています。

事業者は、事業にかける「思い」を設計者に伝えるのが仕事。その共有のための時間をどれだけ持てるかが勝負ではないでしょうか。八木さんは、私が1つ提案をすると10で返答してくれたので、コミュニケーションの面であまり苦労はありませんでした。強いて言えば、何かをつくろうとするときは「なぜそれをやるのか」の共有を丁寧に行いました。

問題解決のカギは、丁寧な目線合わせ

建物について理解できるよう、八木さんが模型を何回も作り直してくださったのはありがたかったですね。こちらの目線に合わせてくださったのを感じました。また、私とだけでなく、介護スタッフや厨房スタッフ、地域住民とも根気強く対話してくださいました。そのおかげで、さまざまな問題が解消したのではないかと考えています。

(事業者インタビュー:社会福祉法人丹緑会)


建物は、使う人と一緒につくるもの

前職でたまたま特別養護老人ホーム設計の依頼があったのをきっかけに、福祉施設の設計に10年以上携わっています。「人生の豊かさとは何か」という大きなテーマから考えられる設計は貴重だと思います。

当たり前ですが、建物は使う人と設計者でつくるもの。福祉職の方、利用者さんやそのご家族、地域の方とも話す中で、設計者としてすべきことが見えてきます。

また、事業として成立させるためには、利用者さんだけでなく職員さんや地域の方も使いこなせる施設にする必要があります。どうすればみんながより自然に集まって施設を使いこなし、にぎやかに過ごせるかは、時間をかけて丁寧に考えたほうがよいと思っています。

設計者がつくった建物で過ごし、イメージを膨らませる

事業者と設計者が理解し合うためには、まずは設計者がつくった建物に来て過ごすのもいいですね。そこで、事業者が普段いる福祉の空間と、設計者がつくっている空間を掛け合わせることで、どんな可能性が生まれそうかを伝えられるといいかもしれません。

丹緑会の篠崎さんにも、私が設計した建物に来ていただいて、質問する中で相互に理解を深めていきました。設計者としては、何を大切にして福祉のサービスをしようとしているのか、また現在の福祉を取り巻く容易でない状況の中で、どこに突破口を見出されているのかは、非常に聞きたいところです。

迷ったときは、「何を大切にしたいのか」に立ち返る

お互いの意図を理解するには、対話の数が必要です。篠崎さんとは既に、別の老人ホームや本事業の1期の工事からご一緒していたので、経験から学びを吸収し、対話を重ねながら事業を進めています。

今回のプロジェクトでは、施設に入れたいものが多すぎて苦労することもありました。そんな時は施設への理解を深めるチャンス。プランを無理に進めるのではなく、もう一度「何を大切にしたいのか」に立ち戻ってみて、幅広い視野で話せるといいのではないかと考えています。

地域に開けた、風通しのいい施設に

語弊があるかもしれませんが、福祉施設自体は“すごいもの(建築物)”である必要はないと思っています。身のまわりに、自然にあるものだと思うんです。

そもそも福祉とは助け合いのようなもの。「あなたと私」の関係がどんどん伝播して熱を帯び、それが周りを巻き込んで地域に広がるような、風通しのいい施設になったらいいなと感じています。

(設計者インタビュー:合同会社わくわくデザイン)

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