日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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特定非営利活動法人縁活・b.i.n木村敏建築設計事務所|第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

「第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:「集落に繰りだす福祉 溶けこむ施設」
■実施事業団体:特定非営利活動法人縁活
■設計事務所:b.i.n木村敏建築設計事務所

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事業のサイズ感、「懐かしさ」と「かっこよさ」の両立にこだわった

事業の構想をはじめたのは、2021年の初め頃です。縁活で行っている「おもや」という障害者の就労支援事業について、新しい形をとりたいと思い、古民家の物件を探そうかと話していたところでした。

具体的に動き出したのは、2021年の6月頃からです。設計士の木村さんから、「みらいの福祉施設建築プロジェクト」というものがある、一緒に申請して活動しないかと“ラブコール”をいただき、やってみたいと思ったのが本格的に事業を進めるきっかけになりました。

この事業は、サイズ感がすごく大事だと思っています。滋賀県全部、栗東市全部ではなく、鳴谷集落のサイズで事業を行う。ここは自分たちのコンセプトとして重要なところです。また、目立ちすぎないけどかっこいい、古すぎないけど新しすぎないといった、懐かしくも素敵でかっこいいというバランスが、この建物や事業のこだわりになるかと思います。

設計をお願いする決め手は、価値観の共有ができたこと

設計士の木村さんと出会ったのは3年ぐらい前です。各地でまちづくりに関わっている人たちが集まる「アールクロス」という集まりが栗東市内にあり、そこで初めてお会いしました。そこでは自己紹介をした程度でしたが、6月のメッセージをきっかけに木村さんの思いや仕事の仕方、古民家のお話を聞くうちにだんだんと近い存在になっていきました。

木村さんは、栗東で空き家バンクを運営する「NPO法人くらすむ滋賀」のメンバーでもあります。素敵な設計をするだけではなく、空き家の社会的な課題をしっかり把握されたうえで、この地域の古民家を再生したいなどの思いをお持ちでした。私も栗東や古民家再生への思いには共感しましたし、最終的には郷土愛も含め、価値観の共有ができていたことが、設計をお願いする一番の決め手になったと思います。

定期的に、実際に集まって意見交換をした

事業内容について話したときには、木村さんが私の言ったことに対して、それはどういうことなのかを考え、理解しようと寄り添ってくれていたように感じます。また、暮らしている地域も遠くはなかったので、クラウド上でのやりとりだけでなく定期的に集まったり、話したいことがある場合には時間を見つけてすぐに来てくださったりしました。共にこの施設を作り上げている関係だ、という感覚で事業を進めていました。

(事業者インタビュー:特定非営利活動法人縁活)


木を多く使うことで生まれる豊かさ

私は独立以来、近くの山の木を使った木造住宅の設計を手がけていましたが、その手法をもう少し拡大し、公共的な建築を同様の手法で設計したいと思うようになりました。福祉分野の建築物でもっと木を多く使っていけば、そこでの営みが豊かになるんじゃないか、また、まちにとってもいい作用があるのではないかと考えました。

建築物は、用途に合わせた楽しさが必要な「行くところ」と、心が休まる場である「帰るところ」の大きく2つに分けることができます。福祉施設も用途は多様ですが、「行くところ」であると同時に「帰るところ」のような心地よさも兼ね備える必要があるのではないでしょうか。そこで、今回のプロジェクトではかつての農家住宅を再現することにしました。

もともと農家住宅は半分は仕事場・半分は住まいでしたから、そのあり方が小さな福祉施設の最適解になるのではないかと考えたのです。

初期段階では、この建築のあるべき姿を無理に考えない

事業の初期は、あまり具体的に間取りや形を考えたり、無理をしてコンセプトを語る必要はないと思います。最終的にどんな建築がふさわしいかは、始まりの時点ではまだ誰も気がついていないと考えたほうがよさそうです。

僕ら設計者が知りたいのは、あらゆる種類の情報です。とりとめなく時間をかけて、世間話のようにお互いに話すのがいいと思います。とくに、福祉の現場で日々起こることや、日常的な問題を設計者は知りません。可能な限り、実際に現場を見せていただくようなことも大事ではないでしょうか。

イメージを共有するときは、考える余地を残す

今回は、実際にその場にいるような気持ちになるために、パースをたくさん描いてコミュニケーションしました。建築物と同じく、最初は集まる人たちの姿もリアルに表現していましたが、途中から人はラフなイラストに差し替えました。

そうすることでイメージが膨らんだり、共有したりできるようになったと思っています。お互いに考える余地を残しながら、表現したりコミュニケーションしたりすることが大事なのかなと思います。

(設計者インタビュー:b.i.n木村敏建築設計事務所 )

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