日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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社会福祉法人新生福祉会・株式会社伊東豊雄建築設計事務所|第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

「第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:「体験型福祉施設「ボナプール楽生苑」」
■実施事業団体:社会福祉法人新生福祉会
■設計事務所:株式会社伊東豊雄建築設計事務所

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施設の就労者、地域の方、観光客が集える場所に

社会福祉法人として、福祉課題と地域のまちづくりの課題にどうしたら寄与できるかを以前から考えていました。生口島には、障害者の就労事業所や宿泊施設、人の集えるスペースが少ないんです。そのため島外から泊まりに来る方も含めて、いろいろな方々が一体となって交流できる場所にしたいと思っていました。

地域課題については、地域の農家さんや自治会、商工会、行政などにヒアリングを行いました。また、宿泊機能を有することから観光関係との連携も必要だと考え、瀬戸内地域の観光産業の活性化の支援を行う「瀬戸内ブランドコーポレーション」にもプロジェクトに参画いただきました。

地域への理解が深い事務所に設計を依頼した

今回は、就労する人が心地よく過ごせて誇りを持てるような空間、かつ、ハード・ソフト両面において地域に開かれた施設づくりを目指していました。そのため、閉鎖的な福祉施設のイメージを変えられるような設計やデザイン、そして地域にも深い理解のある設計事務所にお願いしたいと考えました。

伊東豊雄先生の事務所は、尾道市内でも公共プロジェクトの設計を行っており、生口島の隣にある大三島(愛媛県)でも、地域の活性化やエンパワメントを意識した建築や取り組みをされていると聞いていました。伊東先生にお願いすれば、子どもから高齢者まで楽しく関われる空間になるのではと思い、尾道市役所の担当者に連絡先を教えていただきご相談しました。

主にオンラインでやりとりし、期待以上の設計図面にワクワクした

東京と広島という距離はありましたが、オンラインでの会議やメールのやりとりを重ね、進めていきました。いろいろとこちらの反省点もありましたが、私たちの思いを十分に汲み取り、思っていた以上にそれらを設計に落とし込んでくださったので、とてもワクワクしながらプロジェクトを進めることができました。

(事業者インタビュー:社会福祉法人新生福祉会)


株式会社伊東豊雄建築設計事務所
福祉を通じて地域に根ざした建築を設計できる魅力

多くの公共案件や地域に根ざす建築の設計を手がけてきましたが、福祉施設はあまり経験がありませんでした。しかし、今回は地域社会との連携が不可欠な就労型福祉施設の依頼だったので、福祉を通じながら地域に根ざした建築を設計できる点に新たな魅力を感じました。

障害者の福祉施設を設計する際は、事業者による施設運営に対する具体的なイメージが重要かと思います。新生福祉会さまからいただいた要望は非常に具体性があり、通常より充実したコミュニケーションの上で設計ができているという実感もあります。

「開く」ことと同時に、「閉じる」ことも考える必要がある

設計にあたり私たちも、施設の中でスタッフの方々が具体的にどのように動き回って福祉活動に携わるのかを、より具体的に想像することの重要性を感じました。

今回は、施設を利用される一般の方々と就労者との接点を作り出すために施設を開きつつ、就労者の方々を守るという意味では、閉じることも同時に考えなければならない。これは福祉設計の大きなテーマだと思います。フィジカルな機能性だけでなく、就労者のメンタルの状況の変化に対して対応できるような機能性を考えることは、非常に重要ではないでしょうか。

距離は離れていたが、話す機会はむしろ増えた

今回はコロナ禍での事業提案だったため、実際に土地を見る機会や、対面で議論する機会をとりにくかったのは、設計の前提条件を理解する上で少し高いハードルでした。ですが、オンライン会議を頻繁に行えたことで、かえって対面で打ち合わせをするよりも話す機会は増えたように感じています。

アドバイザリー協力をしてくださった瀬戸内ブランドコーポレーションの方々が、福祉団体さんの考えていることを具体的な形で企画に落としたり、会議を先導するような役割をとってくださったりしたのも、円滑なやりとりを進めたように感じます。

(設計者インタビュー:株式会社伊東豊雄建築設計事務所)

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