日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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特定非営利活動法人かしわのもり・株式会社トコト一級建築士事務所|第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

「第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:「まち化する福祉施設 レンガの家」
■実施事業団体:特定非営利活動法人かしわのもり
■設計事務所:株式会社トコト一級建築士事務所

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認知症のある方や医療的ケアの子どもたちも集える場所を

私たちは訪問看護をはじめて20年になります。利用者の方が服薬したり治療をしながらも住みたい場所に住み続け、人とつながりながら大事にしてきた暮らしを続けることで、より健康を維持することができると実感していました。

そして10年ほど前からは、認知症のある方や重度の医療的ケアが必要な子どもたちが集う居場所を作れたらと思うようになりました。人とのつながりや出会い、思いが噛み合って事業が動きはじめたのがこの1年ほどのことです。

ハードとしての建築については、設計士の方たちと対話しながらつくっていきますが、ソフト・機能面については、地域の方と対話をしながらつくることにこだわってきました。こまめに話し合い、小さなワークショップやイベントを積み重ねて、できあがったときに「私たちのレンガの家だよね」と思ってもらえるような仕掛けをしていきたいと思っています。

事業にぴったりな建築士さんを紹介いただいた

どんな建築士さんならご一緒できそうか考えたときに、私たちが事業展開している十勝は積雪地域なので、土地柄のよくわかる北海道に住んでいる方がいいとまず思いました。そして、今回のテーマに女性の孤立という課題もあったので、それを理解してもらうためにも女性であること。さらに、できれば若くて子育て中の方がいいかなと考えました。

そんな話を、十勝出身で建築にも福祉にも詳しいコミュニティデザイナーの西上ありささんという友人にしたとき、株式会社トコト一級建築士事務所の山本さんを紹介いただきました。はじめてオンラインで山本さんとお会いしたときに、まさに想像通りの方だと感じました。話しやすい雰囲気で、とても信頼できると思い、ぜひお願いしたいと思いました。

疑問は小さなうちにオンラインで話して解消する

異なる専門職同士なので、使っている言葉が違ったり、言葉に持つイメージが異なることが途中でいくつかありました。

例えば、私たちはレンガの家の構想について、十勝同様に人口が減少していて資源の少ない地域であっても、いくつかの課題をクリアすれば再現できるという戦略を考えていたので、ポジティブな意味で「真似しやすい」という言葉を使っていました。

しかし山本さんと話していく中で、それは建築家の方にとってはあまり好ましい言葉ではないとわかり、言葉の意味や考えを伝えて理解し合うことが重要だと思いました。

懸念事項があって声をかけると、建築事務所のみなさんはすぐに30分、1時間と時間を作ってくださり、何回もミーティングをしました。小さな疑問のうちになるべくオンラインで話をし、その合間にはメールでやりとりをする。そうして疑問を積み残さないように心がけていました。

(事業者インタビュー:特定非営利活動法人かしわのもり)


福祉施設は、事業者の理念によってそのあり方に幅が生まれる

前職で特別養護老人ホームの設計を担当したときに、事業者の理念によって施設のあり方の幅が広く、解釈の入り込む余地がある点を面白いと感じました。福祉施設は機能的な施設でありながら、利用する方にとっては生活の場・家であるというところが、他の施設とは違うところだと考えています。

場の雰囲気からも、団体の理念や目指す方向性を確認した

施設の機能的な部分に関して理解するためには、どのようにその場所が使われ、介助がどのように行われているのか、実際の現場を見るのが早いと思います。

今回はテーマが「みらいの福祉施設」ですから、未来がどんな方向であるのかを、かしわのもりさんとお会いした日に2-3時間ほど、代表がいれてくれたおいしいコーヒーをいただきながら話しました。話した内容だけでなく、その場所の雰囲気で、団体の理念や目指している方向性を確認できたように思います。

事業者の福祉への向き合い方を施設に反映させる

設計者は、発注者が特に気を遣っている部分に注目すると意図が汲み取りやすいのではないでしょうか。例えば、かしわのもりさんは認知症をもつ施設の利用者のことを「暮らしづらさを併せ持つ先輩方」と表現されていました。そういったところから、福祉へ向き合う際の「お互いさま」という気持ちを感じ、施設もそれを体現する場所がふさわしいと感じました。

かしわのもりさんは頭ごなしに「ダメ」「違う」等とはおっしゃらないので、こちらの提案が設計者の押し付けやひとりよがりになっていないか、みなさんの表情を注意深く見ながら提案しました。

(設計者インタビュー:株式会社トコト一級建築士事務所)

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