日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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社会福祉法人聖救主福祉会・JAMZA一級建築士事務所|第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

「第1回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:「深川えんみち」
■実施事業団体:社会福祉法人聖救主福祉会
■設計事務所:JAMZA一級建築士事務所

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3つの異なる事業者が共同でプロジェクトに携わった

「深川愛の園 デイサービス」「子育てひろば『ころころ』」「ライト学童保育クラブ」という3つの異なる事業が共同で運営する施設の計画なので、設計者を含めたメンバー間で密にコミュニケーションを取ることを意識しました。オンラインツールを活用し、各自都合がいい時間に意見を出し合って資料を作り上げました。

乳幼児からお年寄りまで、1つの空間で支え合える場所をつくりたい

事業については9年ほど前から考えはじめました。江東区で子育て支援の現場に複数勤務し、地域課題の解決を考える中で、子育てひろば「ころころ」を、より理想的な地域支援のあり方に近づけたい、乳幼児からお年寄りまで、ひとつの場所で関わりながら支え合っていきたいと思ったのがきっかけです。

以前、デイサービスの車が私の自宅マンションの玄関で利用者さんを待っている様子を見て、「バスまでお送りできる方がきっと地域にいらっしゃるのに」「子育てだけでなく、お年寄りや他の支援が必要な方も、支え合う施設ができたらいいな」と感じたことも頭に残っていました。

プロジェクトを計画する中では、各施設の全職員や利用者さん、そのご家族や講師・ボランティアさん、さらに地元の方々にもお話を伺い、その声を汲み取っていきました。

思いを言葉で具体化し、類似施設の資料でイメージを膨らませる

私たちが運営するNPO法人で学童保育立ち上げの話があり、その際に長谷川さんにお会いしたのが設計者との出会いでした。長谷川さん・猪又さんのお人柄がすごくいいなと感じ、お二人が千葉県で作ったという複合施設を見てみたいと思うようになりました。

複合施設のイメージを伝える際には、現場で日々利用者さんと向き合っている方々の話から、「どう変化したら仕事がより楽しくなるか」「利用者の方々がより幸せになるか」を具体的に言葉にしていく作業が重要だと感じました。

それを伝えるのが難しい方もいるため、海外の施設や日本の新しい施設などの資料を集めて、みんなでイメージを共有していくことも大事だったと思います。それによって、長谷川さんに具体的な要望を伝えられたと考えています。

(事業者インタビュー:社会福祉法人聖救主福祉会)


人が入り混じって助け合う地域の場としての、福祉施設の可能性

もともと、アジアの混沌とした都市の中にある集落の研究などをしていたこともあり、いろんな人が入り交じりつつ助け合って共に過ごしていく、それぞれに居心地の良い空間とその作り方に興味がありました。福祉施設は、まさにいろんな人の生活を支えて、地域を巻き込んでいく場としての可能性がありそうだと感じています。

また福祉施設の魅力は、そこに個人の生活の一部があり、利用者さんがサービスを受けるだけでなく、主体的に場所を使いこなしうるところかなと思っています。

厳密さとルーズさ、両方の要素を1つの空間に持たせる

福祉施設だからといって、すべてを安全優先で完璧に設計すればいいわけではありません。もちろん、非常に専門的で厳密な設計をする部分もあります。一方で、あえてアナログでルーズな設計にすることで、利用者さんが肩の力を抜いて自由に生活できたり、体や頭のトレーニングになったりする部分もあります。その両極端なものを1つの空間のデザインに落とし込んでいくのは、設計者としてすごく面白いことだと思います。

現地に足を運び、改善したいポイントを具体的に聞いた

事業者の方には、日々の運営の中で気になるポイントや改善点があれば、ストレートに伝えてもらうのが一番気持ちに応えやすいです。今回は、最初の段階で「施設」っぽくしたくないこと、利用者さんが自分で使いこなせるようにしたいこと、地域を巻き込んで運営したいことなどの思いをぶつけてもらったので、それを中心に設計していきました。

本プロジェクトは移転計画ということもあり、実際に既に運営されている場所をくまなく見学させてもらいました。改善したい点を現地で具体的にお聞きしたことで、イメージを形成できました。運営者さんのほうでも参考事例となる施設を見に行ってくださり、それを報告いただいたことでも理想のイメージ共有が進みました。

今回は、1階にデイサービス、2階に学童、さらに子育てひろばがあり、さまざまな関係者の方がいて、ごちゃ混ぜになって1つの建物を使うという事業。部分的には各事業者さんと打ち合わせをしつつ、それをもとに全体で共有するような、部分と全体の行き来をしながら設計を進めました。提案資料をまとめる中で、よりコンセプトが深まり、みなさんの空間への思いをきちんと詰め込めたように感じます。

(設計者インタビュー:JAMZA一級建築士事務所)

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