日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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古谷誠章氏(第3回 審査委員長)|「建築には、人が幸せになるための舞台を作る役割がある」

「第3回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において審査委員長を務めていただく古谷誠章さんから、公募にチャレンジされるみなさまに向けてコメントを寄せていただきました。

古谷誠章(Nobuaki Furuya)
建築家/早稲田大学 教授/NASCA 代表

1955年 東京生まれ
1978年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1980年 早稲田大学大学院博士前期課程修了(穂積研究室)
1986年10月〜1987年10月 文化庁芸術家在外研修員として、スイスの建築家マリオ・ボッタ事務所に在籍
1990年4月〜1994年3月 近畿大学工学部助教授
1994年4月〜1997年3月 早稲田大学理工学部助教授
1994年9月〜 NASCA設立
1997年4月〜 早稲田大学理工学部教授 (現・創造理工学部教授)
2017年〜2019年 日本建築学会 会長
2020年〜 早稲田大学芸術学校 校長
2021年〜 東京建築士会 会長

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地域と関わる中で、果たすべき建築家の役割とは

「地域」というものは、建物などのハードだけ、あるいは自然の風景だけで成り立っているわけではありません。そこで暮らし、日々活動している方々によって作り上げられるものです。建築はそこで、人々が暮らす舞台——さらに付け加えるならば「人々が幸せになる舞台」を作る使命を請け負っているわけです。

人は、一人では生きていけません。人との出会いが、幸福につながっていくものです。建築には人々を守るシェルターとしての役割だけではなく、い合わせた人と人同士を引き合わせる働きもあると考えています。

建築家の仕事は、その地域で暮らす多くの人たちがどんなことを感じ、今何を必要としているのかを汲み取ることからはじまります。地域で生きる人たちの願いを聞き、どのような空間があればそれを実現できるのか。専門家として、それを提案することが建築家の大きな役割だといえるでしょう。

これから必要とされる福祉施設に「答え」はない

福祉施設を必要とされている方々が人里から離れた閉ざされた環境に置かれてしまうと、健康を取り戻したり、幸せに暮らしたりするのは困難になると思います。

もちろん、だからといってすべてがオープンにされてしまうと入居者の方のストレスになったり、プライバシーを侵害してしまったりする懸念もあるでしょう。しかしオープンに開かれた状態から必要に応じて適切に閉じたり、ふさいだりすることは可能ですが、逆に閉ざされているものを開くことは難しいということです。

福祉施設の設計をする建築家のみなさんには、その点についてよく考えていただきたいと思います。

答えは一つではなく、いろいろな形があると思います。依頼者(福祉事業者)と建築家がキャッチボールをしながら、最終的に課題を解決するアイデアを導くことをぜひ大切にしてください。それが、このプロジェクトにおいて非常に重要なポイントです。

どのような価値を生み出したいか? 自信をもって提案を

申請されるみなさんには、それぞれがどんなことを願い、それをどんな方法で実現しようと考えて、スキルや技術、ノウハウなど自分たちの力をどのように活かしたいと思っているのか、具体的に聞かせていただきたいです。

自分たちがたどり着いた答えに自信をもって、私たち審査委員に対して明快に示してください。みなさんが生み出したいと考えている価値がはっきりわかると、私たちにも強く応援したい気持ちが芽生えるでしょう。

審査員一同、みなさんのアイデアを後押しをすることが大きな力となるよう努めたいと思っています。ぜひがんばってください。

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