3年目を迎えた今、リーダーが語る「みらいの福祉施設建築プロジェクト」の現在地
取材: 大島悠(ライター)
2023年8月現在、3回目の公募を実施している「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」。今回は、本プロジェクトの企画・運営を主導するリーダーの福田光稀(公益事業部 国内事業開発チーム)が、立ち上げからこれまでを振り返ると共に、申請を検討しているみなさまに向けて、日本財団が大切にしていることを改めてお伝えします。
福祉施設に建築デザインの力を。地域を支える拠点づくりを目指して
これからの福祉施設には、建築デザインの力が必要だ——これまでさまざまな福祉事業を担当する中で、現地を訪れ、そう実感することが多々ありました。
提供しているサービスの内容はすばらしいのに、建物がそれを活かすデザインになっていない。そんなケースが往々にして見受けられます。一方、建築デザインに地域性や事業者の想いがしっかり反映されており、その施設で提供されるケアの質が高まっていると、確かに感じられる例も目にしてきました。
そうした課題感をもとに、私たちが新たな建築助成公募となる「みらいの福祉施設建築プロジェクト」を立ち上げるための議論をはじめたのは2020年のことです。
日本財団はこれまでも、40年以上にわたり多くの社会福祉施設の建築助成に取り組んできました。しかしみなさんもご存知の通り現在の日本社会では、これまでのあり方とは大きく異なる、地域の福祉を支える拠点の整備などが急務となっています。
そこで本プロジェクトでは、福祉事業者と建築家、そして自治体のみなさんが協働し議論を重ねることによって、それぞれの地域で、地域にひらかれた「みらいの福祉施設」のあり方を模索していただきたいと考えました。
「みらいの福祉施設建築」とは何か? 正解は一つではない
「みらいの福祉施設建築プロジェクト」では2021年に第1回、2022年に第2回の公募を行い、合計9つの事業を採択しました。審査は、福祉・建築両分野の専門家を審査委員に迎え、建築デザインコンペ形式で実施しています。現在(2023年8月)、第3回を開催している最中です。
初開催となった第1回の公募では、私たちの想定を大幅に超える約400件の申請があり、本プロジェクトの必要性、期待値の高さを改めて感じる結果となりました。
第1回は特に具体的な事例がまだない中でスタートしたため、申請を検討するにあたって苦戦した方も多かったのではないでしょうか。「みらいの福祉施設」とは何か。もちろん審査の基準や視点はお伝えしていますが、施設のあり方に明確な正解はなく、発想は自由だからです。
ただ私たちは、何か新しい福祉のビジネスモデルを生み出したり、ランドマークとなる建物を増やしたいわけではありません。
本プロジェクトで重視していることは、大きく2つあります。1つは、福祉事業者と建築家が、それぞれの専門領域の知見をもとに議論を交わしていくプロセスそのもの。もう1つは、該当する地域の特性を読み解き、その地域が抱える課題と徹底的に向き合うことです。
福祉・建築両分野の専門家が、「協働」するプロセスに意義がある
まず1つ目。これからの社会に必要とされる福祉施設を建築するには、事業者が伝えることを建築家が言われるまま形にしたり、事業者が建築家に設計を任せきりにしたりするのではなく、お互いが専門家としての意見を出し合い、議論したうえで最適解を見つけることが重要だと考えます。
福祉施設の建築は他の商業施設などと比べると制約が非常に多いため、これまで積極的に関わる建築家は決して多くありませんでした。しかし近年、若手を中心に福祉領域に高い関心を持つ建築家が増えています。
「どうしたらよい建築家と出会えるかわからない」「どんな基準で設計事務所を選べばよいか」福祉事業者の方からそうしたお問い合わせを受けることも多いのですが、手段はさまざまありますので、ぜひあきらめず根気よく協働できるパートナーを探し、コミュニケーションを深めてみてください。
福祉拠点が「地域にひらかれている」とは、どのような状態か?
次に2つ目の、地域課題との向き合い方について。本プロジェクトでは、地域福祉の拠点となる施設が各所に生まれること、それが地域社会を支え、まちづくりの核として機能していくことを目指しています。そのために外せないと考えるキーワードの一つが、「地域にひらかれた福祉拠点」であることです。
しかしこの表現はどうしても誤解されやすく、例えば「施設にオープンスペースを設置すればいいのですか?」など、単なるハード面の要素として受け取られてしまうことがよくあります。
本当の意味で「地域にひらかれている」とは、具体的にどういうことなのでしょう。
あり方はさまざまなので一言で定義するのは難しいですが、例をいくつか挙げるならば、施設側と地域のみなさんとの信頼関係が構築されていること、その地域における拠点の役割が明確に伝わっていること、その地域の歴史や特性、今に至るまでのつながりをしっかり読み解いていること、それを踏まえたうえで地域が抱えている課題解消を目指していることなどでしょうか。
私自身、実際にこれまでに採択した事業の拠点を視察に訪れたとき、これらの要件が満たされているのを肌で感じることができました。
ただ一つ注意していただきたいのは、成功事例のハード面だけを真似ても同じような成果は得られないということです。
これまでの公募を通して9つの助成事業が生まれた結果、各所への視察申し込みや問い合わせが増えていると聞いています。もちろん、先行事例から学びを得るために行動を起こすことも大切だと思います。
しかし各地域の課題や状況はあくまでも特有のものであり、解決方法もさまざまなはずです。本当の意味でみなさんの地域を支える「みらいの福祉施設」を生み出すためにも、そのことを常に意識していただきたいと思います。
「不採択でも議論が前進した」長期的な取り組みとして、引き続きチャレンジを
過去2回の公募を終えた後、一部の申請者の方からとてもうれしいお声がけをいただきました。「不採択ではあったが、関係者との議論を深めることができた」——申請準備を進めるプロセスが、本プロジェクトで重視している「専門家同士の議論を深める」きっかけになったとのこと。惜しくも採択されなかった方から、このような感謝の言葉をいただけるとは思ってもいませんでした。
「みらいの福祉施設建築プロジェクト」では、一度不採択になったとしても、再チャレンジすることが可能です。実際に第1回では不採択となったものの、改めてプランを練り直して申請いただき、第2回で採択された事業もあります。
関係者と専門家とが膝を突き合わせて議論を深め、地域を支える福祉のあり方を模索していくには、当然ながら長い時間と労力がかかるでしょう。第3回の公募は間もなく終了して半年間の審査期間に入りますが、みなさまはぜひ、来年以降の公募も見据えて準備を進めていってください。
日本財団の「みらいの福祉施設建築プロジェクト」を一つのきっかけとして、福祉のあり方が少しずつ変わり、今を生きる人たちを支える活動が日本全国に広がり、社会がよりよくなることを願っています。
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