日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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第4回助成決定団体インタビュー 特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ/株式会社坂茂建築設計

Text:遠藤ジョバンニ

「第4回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」において助成が決定した団体に対し、採択直後にインタビューを実施しました。

■作品名:スキップフロアによる障害者グループホームの地域拠点化 たけし文化センター田町
■事業実施団体:特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ
■設計者:株式会社坂茂建築設計
■キーワード:障害者グループホーム、シェアハウス・ゲストハウスなど(申請時点)

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長年培った感覚を、どう事業と建築という“場”に落とし込むか

特定非営利活動法人 クリエイティブサポートレッツ
代表 久保田翠さん

この法人が福祉事業を行うそもそものきっかけは、私が強度行動障害のある子どもと暮らして、日々の生活に困り果ててしまった経験にあります。そのなかで、従来の福祉制度や郊外に建てられることの多い福祉施設像に疑問を抱くことも多々あります。「障害のある彼らも街のなかで生きる、同じ社会で生きる人なのだ」という感覚を、どのように自らの事業や建築という“場”に落とし込めるか。それを浜松市の中心街を舞台に考え続けてきました。

今回申請した「たけし文化センター田町」は制度的には障害者グループホームであり、同時に一般の方も利用できるシェアハウスです。これは当法人の25年にわたる活動のなかで得た手ごたえから生まれたものです。ただ、提出資料の制限のなかで法人のミッションや取り組み全てを語ることは難しいため、あえて建築を軸に「これだけは伝えたい」という要点に絞り込みました。そのため、パネルを作るような気持ちで図や写真を多用して資料に落とし込んでいます。

内部でじっくりと挑戦してみたいことの言語化を

この事業構想が立ち上がったのが約4年前。プロジェクトを始めた当初、建物のイメージよりも「新しい施設でやりたいこと」が明確にありました。そこで、建築の知識を持つスタッフとともに構想をまとめて、2023年頃に非常に尊敬する建築家である坂さんの事務所へ依頼しました。コンペの経験も豊富だったこともあってか、スムーズに設計へと落とし込んでもらえた印象です。

こうした環境が整っている福祉事業者ばかりではないと思うので、内部でじっくりと挑戦したいことや建ててみたいものを議論し、それを言語化しておくと、設計事務所さんとともに本格的なプロジェクトへ移っていく際にも話がスムーズに進むのではないかと感じています。

具体的な“誰か”を思い浮かべながら空間をつくる

株式会社坂茂建築設計
菅井啓太 さん

今回の「たけし文化センター田町」の場合は、実際に施設を利用する方・そこで過ごす方がどのような体験をするのか、具体的に“人”を思い浮かべながら空間を定めていきました。例えば、建築の視点からみれば天井が低く収納にするしかないような箇所も、福祉の視点からみれば、狭い空間が落ち着く人にとっては居室の一部として活用できるかもしれない。

スタッフの皆さんが「その人にはこういう空間が必要だ」と考えられるのは、福祉サービスを利用する方々を、日々しっかりと観察しているから。だからこそ、不特定多数の人が自由に出入りする特性のある場所でありながら、個々のプライバシーや暮らしやすさを担保したグループホームの姿を図面へ落とし込めたのだと思います。

できる・できない関係なく、理想を設計者へぶつける大切さ

実は私たちの事務所は福祉施設の設計経験がなく、また今回のプロジェクトはグループホームとシェアハウスの複合施設のため、福祉施設として認定を受けるための建築要件などを理解しながら福祉側のニーズをまとめ、案を作り上げていくのに時間とコストがかかりました。スケジュールとしては、第4回の募集要項発表前から構想をうかがって、発表後の約3カ月で具体的なかたちにしていきました。

もしこのプロジェクトに応募を検討している福祉事業者にアドバイスをするなら、できること・できないことを含めて、設計者に「こうしてみたい」という理想や要望をぶつけてみてほしいです。設計者はその声をどう実現するか、そのための方法を考え、具体的な案を出してくれるはずです。

 


 

※他の採択事業者のインタビューはこちらからご覧いただけます(YouTube再生リスト)

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