手を取り合って「みらいの福祉」を描き出す[第5回 最終審査会レポート]
Text:遠藤ジョバンニ
「みなさんの考えるみらいの福祉施設建築は、どんな姿をしていますか?」。この問いを本プロジェクトが投げかけはじめて5年目になります。節目となる第5回では、どのようなプランが寄せられ、審査の場でどのような議論が交わされたのでしょうか。
2025年9月21日(日)、第5回「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」の最終審査会が日本財団(東京・赤坂)で開催されました。54事業者の応募のなかから一次・二次審査を通過した5事業者が登壇し、事業プランおよび建築計画のプレゼンテーションと質疑応答を行いました。本レポートでは、審査会の様子の一部をご紹介します。
会場である日本財団ビルには、審査委員長である建築家・木下庸子氏をはじめ全審査委員7名が集まり、建築と福祉、それぞれの専門分野に立脚した厳正な審査が行われました。
福祉・建築・地域の視点が交差するプレゼン
プレゼンテーションには、申請した福祉事業者と設計者、そして地域を代表して、自治体の担当者にも参加いただきました。本プロジェクトで建築が仲間入りを果たす「地域」も、継続して事業を進めていくうえで重要な要素のひとつ。第3回より3者によるプレゼンテーションを実施しています。
参加団体一覧
今回、1次審査・2次審査を通過したのは以下の5事業者です。(設計デザイン案登録番号順)
A-002966
松島町ソダテル長屋プロジェクト
(一社)在宅療養ネットワーク/伊藤立平建築設計事務所+株式会社納屋
A-003054
ひびいちゃう・まざっちゃう・わきだしちゃう、こどもとおとなの共育ユートピア
(福)宇治福祉園/株式会社地域計画建築研究所
A-003063
みんなのハナレ-療育に役立つ遊びの森と薪の湯屋付き-
(福)ぷらうらんど/有限会社乾久美子建築設計事務所
A-003079
地域とともに住み続けるための拠りどころ 多世代福祉交流施設「大分わさだ 安心の丘」
(福)大翔会/有限会社ビルディングランドスケープ一級建築士事務所
A-003101
下九沢団地ネイバーズ
(福)愛川舜寿会/一級建築士事務所 t e c o 株式会社
審査会の様子は、公式YouTubeチャンネルからも見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=YeYI9yMJrSw
それぞれが描く「みらいの福祉」の強度を確かめる
審査会では各事業者によるプレゼンテーションのあと、質疑応答が行われました。第5回はそれぞれの時間配分を見直し、質疑応答の時間を拡充。審査委員が模型を確認したのちに、設計の意図や経緯などを質疑で掘り下げ、プロジェクトの強度を確かめました。
質疑応答の中で、審査委員から以下のような質問がありました。ここではテーマ別にその一例をご紹介します。
「ひらく」と「とじる」
・福祉施設を地域にどう「ひらく」か、その工夫
・そのうえで利用する方々のプライバシーをどう担保するか(=「とじる」設計)
継続性
・法人内の人員配置や既存事業への影響をどのように考慮しているか
・スタッフの働き方を踏まえたデザインになっているか
・提供サービスや利用人数を明確化し、持続可能な収支計画を立てているか
・プロジェクト開始後の将来的なビジョンをすでに描いているか
地域性
・地域課題とプロジェクトの方向性が整合しているか
・地域で暮らす人々の意向や、切実なニーズを汲んだものになっているか
・自治体や関係団体、地域のステークホルダーとの連携が図られているか
新規性
・既存事業と異なるアプローチを打ち出しているか
・これまでの社会・地域に存在しなかった目新しい要素を取り込んでいるか
福祉と建築が手を取り合った先で
5事業者によるプレゼンテーションと質疑応答を経て、いよいよ最終審査へ。ポイントとなったのは福祉と建築の“両輪”が噛み合って相乗効果を生んでいるか、という点でした。
福祉事業者が想いを言葉にし、設計者が設計やデザインで応え、さらにそこからアイデアをブラッシュアップしていく――。両者が同じ熱量と水準で挑戦しようとしているか、新たな価値を生み出そうとしているか、慎重に議論を重ねました。
第5回を迎えた「みらいの福祉施設建築プロジェクト」。「福祉」と「建築」の両者が互いに歩み寄り「みらいの福祉」のかたちを探る、その実践の場になっていることを、プランからひしひしと感じる時間となりました。
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