日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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ここに自分の居場所を見つけてもらうために。特別養護老人ホーム 栗林荘(社会福祉法人丹緑会)

Photo:土田凌 Text:遠藤ジョバンニ

2021年にスタートした「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」。採択決定後、全国各地で、それぞれの建築物が建ち始め、街の仲間入りを果たしています。それぞれの事業計画はその後、どのように進んでいるのでしょうか? 今回は2025年12月、リニューアルオープンを果たした「栗林荘」(第1回採択)を訪れました。

栗林荘が計画段階から徹底して掲げてきたのは「この栗林荘に関わる人すべてを幸福にすること」。そこには、福祉サービスの利用者だけでなく、近隣の人々、そして働く人々も含まれています。実際に取材陣が足を運んでみると、そこにはさまざまな人の笑顔がありました。

スケボーパークから始まる、不思議な動線

栃木県小山市。新幹線の停車駅である小山駅から車で15分ほど走ると、幹線道路が農道へと変わり、のどかな田畑の風景が広がります。栗林荘は、その一角にありました。

個性的なグラフィティが目を引く栗林荘の入口。高い壁を取り払い、入口は人々を引き込めるよう、少し奥まっています

栗林荘は、特別養護老人ホームをメインに、デイサービス・ショートステイ・居宅介護支援を展開する福祉施設で、社会福祉法人丹緑会が運営しています。施設には常時約140名のお年寄りが暮らし、デイサービスの方々もあわせると約150名が利用する大規模施設です。

1977年の設立以来、約50年にわたり地域の福祉を支えてきた栗林荘。ニーズの拡大に合わせて2016年より3期に分けて大規模改修工事を進め、2025年9月に全工程が終了しました。本プロジェクトでは、第3期に当たる部分を助成しています。

第3期に新設されたのは、カフェ・パン屋・交流ホーム・バスケットコートやコインランドリーなど。施設を利用するお年寄りだけでなく、子どもから大人まで地域の方々が自由に使える機能を中心に整備されています。

「失われた地域の互恵互助機能を取り戻す」を合言葉に作り上げた栗林荘の新しい姿を、施設長の篠崎一弘さんに案内していただきました。

門はオーダーメイド。栗林荘のリニューアルの歩みがゆっくりだったため、門扉職人さんがかたつむりをつけてくれたそう
外構の壁はあえて低くし、人が腰かけられる高さに設定しました
全館通してフラットに続く道の途中には、ランドマークであるハーフパイプが。訪れた際にはご近所のスケートボーダーたちが集まっていました

篠崎さんが真っ先に案内してくれたのは、敷地の中央にあるスケートボード用のハーフパイプでした。

篠崎一弘さん(以下、篠崎さん):ここは通路の予定でした。ですが、どうしても“目的性の強いもの”を設置してみたかった。道の途中にハーフパイプがあれば、スケートボーダーとお年寄りが行き交って、関わりが生まれると思ったんです。

実際、栗林荘のなかでも、ここはとくに人が交わる象徴的な場所のひとつになっています。

スケボーパークの脇には、菜園用の小さな畑と、ホームの窓が。中にいる利用者さんたちにも滑っている様子が見えるよう、配置にも工夫が凝らされています

特別養護老人ホームは、利用者の最期を看取る機会の多い福祉施設でもあります。そこまでを担う施設だからこそ、日常では交わらない存在同士を、意図的に同じ場に置き、偶発的な関わりをデザインしていく。それが栗林荘全体を貫く設計思想だといいます。

2025年11月に行われた竣工式では、パークを使ったプロによるパフォーマンスが披露されました。それが想像以上に好評で、いまでは利用者が、プロチームのTシャツを着て応援するほどの“推し活ブーム”が巻き起こっているそう。栗林荘に暮らす方々の穏やかな日々に、思わぬ角度からの新しい風が吹き込んでいます。

食堂
食堂脇の土間スペース。デイサービスの利用者が、かまどを使ったご飯の炊き方をスタッフに伝授する場面も生まれ、意外な一面を知ることができたそう

福祉サービスを提供する側と、受ける側。支援というと、利用者の日々の困りごとやできないことにどうしても目がいきがちで、「支援する・される」の一方的な関係に価値観が固定されてしまうことがあります。

そうした既存の関係が崩れるような仕掛けが、リニューアル後の栗林荘のなかには多数ちりばめられていました。

スケボーパークを抜けた先にあるのは、ゴルフシミュレーター。今後、設備が整えられて、フィットネスジムにもなる予定です

利用者に限らず、地域の人も日常的に利用する人気のゴルフシミュレーター。機材の準備をしていたスタッフさんに話を聞くと、最近ゴルフを始め、ある利用者さんに「弟子入り」をしたそう。

僕は初心者なのですが、フォームを見てもらって、このあいだ初めて200ヤードを超えたんです。その人の言う通りにやってみるだけでそうなるのだから、本当にすごいですよね。

その利用者は身体に麻痺があって、もうご自身でプレーすることは難しいのですが、当時の感覚やノウハウを「教える」ことはできます。

篠崎さん:本当は、その人が人生で培ってきた得意なことやできることがたくさんあるはずなんです。利用者が“与える側”でもいられるように環境を整えれば、おのずとスタッフの視点も、“できない”基準から“できる”基準へと変わっていきますよね。

支援する・されるを超えた関係性が、その方の居場所を確かなものにしているのかもしれません。

なんだかよくわからない、みんなのための場所

栗林荘の敷地内には、24時間つねに開放されているエリアが点在しています。スケボーパークやアスレチックなどは、いつでも誰でも訪れることができる場所です。

しかし、この建物がなんなのか、そしてどう利用すればいいのか、施設名や用途がひと目でわかる看板やサインは、あえて出していません。

篠崎さん:なんだかよくわからない場所だからこそ、人は気になるんですよ。現に朝7時に「気になって寄っちゃいました」と住民の方が来ることもあって。そうやって偶然始まる関係性が、思いがけないかたちでつながっていくのが面白いんです。


スケボーパークの脇、敷地の中心にある東屋のような交流スペース。地域の方々がビニールハウスで世間話をすることに着想を得て、用途を厳密に定めない、あえて無目的な空間をつくりました。現在は卓球台が暫定的に入っています
東屋の隣にある、ゲストが泊まれる和室。利用者家族だけでなく、研究のために訪れている大学生などもすでに宿泊していて、関わる人を受け入れる体制が整っています

意図的にわかりやすくしないことで、関係性が自然と始まり、深まっていく。このエリア一帯の明確な利用ルールも、現在はあえて決められていません。「わかりやすいということは、そのぶん決めつけも強まってしまう」と篠崎さん。それなら「人の良識を信じたいし、予期しない使われ方のほうが、場は豊かになると思っています」と語ります。

鮮やかなガーランドが印象的なエリア。写真中央にある足湯は、屋内の生活空間とつながっています
子どもたちが自由に出入りできるキッズスペース。すでに子どもたちの自由なイラストで彩られていました
3on3ができるバスケットコート。機材は、近隣の小学生たちが組み立てを手伝ってくれたそうです

篠崎さん:関わってくれた方々と一緒に作りあげていくスタイルなので、今後施設のあり方はどんどん変わっていきますよ。恐らく1年後の栗林荘は、全く別物になっていると思います。変化し続けていくことでしか、面白いことは起こっていきませんから。

と篠崎さんは笑いました。

いまは、放課後に遊びにくる子どもたちと、子どもたちが主役の納涼祭を企画中だそう。「みんな、少しずつここを自分の居場所だと思い始めています。もう地域の子というよりも、すっかり“こっち側”の子たちです」。栗林荘が、誰かの居場所として徐々に育っていくことを、篠崎さん自身もとても楽しんでいるようでした。

法的には「高齢者福祉施設」に分類される栗林荘に、一見すると関係ない人も、この場にさまざまな方法で関わっていくことができる。その「関わりしろ」を、ハード面を通じて増やしていく。そうすることで、ご家族や本人、親しい人に困りごとが起きたとき、適切なサービスへとつなげていくことができます。

「本当に困っている人ほど、声を上げられない」。 だからこそ、スケボーパークやパン屋、ランドリーなどさまざまな方法で、誰かの日常のなかにつながり続けることが大切。それを篠崎さんのお話と、栗林荘の風景から感じ取ることができました。

誰かの日常のなかに、つながり続ける実践

(写真左から)篠崎さん、水川さん、田仲さん

福祉施設という枠を超えて、誰かの日常のなかにつながり続けること。在籍するスタッフそれぞれが、独自の方法でチャレンジを始めています。

その一人、田仲さんは、栗林荘の敷地内にあるパン屋「ORDER BREAD 捏 -KONE-」の店長です。現在はパン屋を主に担当していますが、もともとは栗林荘の介護スタッフでした。日中活動の一環でパンを焼いたことをきっかけに、本格的な開業を目指すようになりました。今回のリニューアルでこの工房ができて以来、栗林荘所属のパン屋の店主として働いています。

現在は木曜日と日曜日にオープンし、本格的な薪石窯を使ってパンを焼いて店頭販売するほか、最近では栗林荘を飛び出し、地域のマルシェイベントなどにも出張しています。篠崎さんは田仲さんの熱意に感心し、計画の途中段階でパン工房を盛り込んだそうです。

篠崎さん:栗林荘は利用者や遊びに来る人たち、スタッフの「やりたい」をいつも応援しているんですが、気付くと管理者である私の熱量が上回ってしまうこともあるんです。ですが田仲さんは一向に熱が冷めない。むしろ「もっとこうしたいです」と超えてくるんです。

フランス製の薪石窯。利用者のご家族から提供してもらった薪をくべ、発酵するパン生地と静かに向き合う日々

今後は個人注文を中心に、惣菜パンで味を広く知ってもらいつつ、ゆくゆくはカンパーニュやバゲット、食パンのような毎日の食卓を飾るオーソドックスなパンを届けていきたいと田仲さん。田仲さんの構想は、まだまだ広がっています。

田仲さん:今後は、一緒に販売をしたい方がいるので、お店がある程度落ち着いてきたら、その人とのんびりパンを売りたいねと、約束しているんです。

パン屋の名前に「オーダーブレッド」と入れたのは“その人を想う気持ち”に、パンを通して応えたいから。「娘が好きな味だから」「お母さんが喜ぶわ」「親しい人の誕生日に」――そんな会話から生まれるパンで、買い求める人の日々を彩りたいと語りました。

介護部門のユニットリーダーである水川さんもまた、熱心にカフェの開店準備を進める責任者です。

水川さん:いまは利用者と一緒に、デイサービスの食事やスタッフの分をここで作っています。今後はカフェとして、一般の方にもメニューを提供できるよう準備中です。

現在、このカフェスペースは利用者が使うことも多く、取材に訪れた午前中には、おはぎ作りが行われていました。

カフェ。キッチン内部は通路が広めに設計され、ショーケースや調理台は車椅子でも扱える高さに。カウンターの奥には、道路に面したシェアキッチンがあり、近隣の方々に貸し出す予定

このカフェの最大の目的は「認知症があっても、身体に麻痺があっても、やれることがある」と社会に示すこと。実際、ここでの関わりを通じて、大きく変化した利用者もいます。かつて栗林荘で働き、サービス利用者として戻ってきた遠藤さんも、その一人でした。

食事づくりなどの活動に参加した方々のスタンプカード

重度の認知症があり、来所前はふさぎ込みがちで食事もほとんど取らなかったという遠藤さん。カフェのボランティアとして関わる回数が増え、かつてのようにここで腕を振るい始めたところから「遠藤さんらしさ」が再びよみがえってきたと水川さんは語ります。

水川さん:いま遠藤さんは、本当に一番活躍されている、このカフェに欠かせない存在なんです。

それ以来、遠藤さんは自ら「次は何をやろうか」と声を上げるようになり、いまでは周囲の利用者の体調や表情まで気にかける、頼もしい存在になっているそうです。

さらに遠藤さんは、自宅でも料理をしたりご飯を炊いたりと、以前は考えられなかった行動が日常に戻ってきました。娘さんから感謝の言葉を受けるたび「私たちが助けているどころか、いつも遠藤さんに助けられているんです。お礼を言いたいのはこちらのほうですよ」と水川さんは話します。

篠崎さん:だから、全力でありがとうと言うことが、私たちの仕事なんじゃないかなと思うんです。誰かの役に立っている実感が、その人の幸せにつながると思うから。

利用者の変化とスタッフの挑戦。そのどちらにも共通していたのは「役割」が生まれているということでした。

ひらいて、つながり、役割が生まれる

自ら関わり、役割を持つことで、その人自身が再び、地域に居場所を見いだしていく——それもまた、本プロジェクトが重要視する「地域にひらく」を考えるうえで、重要な基点なのではないか。そんな疑問が自然と浮かび上がってきました。

水川さんは、日々の介護やカフェでの活動を通じて、田仲さんはパン屋という場を通じて、少しずつ栗林荘と地域との接点を広げています。そこで改めて「地域にひらく」とはなにか、3人へ問いを投げかけてみました。

篠崎さん:まず、ひらくこと自体が目的じゃないんです。あくまで手段でしかない。どこに目的を置くかで、アプローチはまったく変わってきます。このリニューアルも先進的な特養を作ろうという意図は1mmもなくて、約10年、必然的に追い込まれてきた結果なんです。

旧態依然とした施設のままでは「勝ち目がない」と篠崎さんは語ります。「やるからには勝ちたい」。その“勝ち”とは、優劣を競うことではなく、利用者に「選ばれる施設になること」、スタッフが「ここで働けてよかったと実感できること」を指しています。

続いて水川さんは「ひらいた先でつながること」が同じくらい重要だと受け止めています。その前提にあるのは「相手が困りごとを打ち明けられる存在になる」こと。

水川さん:なんでも相談できる人だと思ってもらえないと、関係は始まりません。まず信頼してもらうこと。そのために、日々の支援を地道に積み重ねていく。それを一番大事にしています。

ある利用者さんが「ディズニーシーに行きたい」と口にすれば、スタッフ同士で相談して、できる方法を探し続け、1年間かけてディズニーシーへの外出を実現させました。

「夢が叶ったあと『次はなにをしようね、どこに行こうね』と次の夢が広がっていく瞬間がとても好きなんです」と水川さんは微笑みます。支援職として誠実に向き合い、関わり続けること。その積み重ねが、利用者や家族との確かなつながりを育てていきます。

一方で、いまは別のかたちで「地域にひらく」役割を担っている田仲さん。介護職として、以前勤めていた特養時代からずっと、介護者の都合や効率ばかりが重視される支援に違和感を抱えていました。

田仲さん:栗林荘で働くようになってから、少なからず心配をしているであろうご家族に、胸を張れる介護をしたい、恥ずかしくない自分でありたいと思うようになりました。

いまはパン屋という立場から、利用者や家族、近隣住民との関係をゆっくりと紡ぎなおしています。

お二人に共通する軸は「自分に胸が張れること」や「身近な存在を裏切らないこと」。それを前提に、これからも栗林荘に関わる人たちの輪を広げていきながら「我がこととして関われる場所」を創っていきたいと、篠崎さんもうなずきました。

取材の終盤、利用者の清水さんが取材の様子をのぞきにきてくださいました。「栗林荘はどんなところですか?」とうかがうと、こんな答えが返ってきました。

取材に同席いただく予定だったホーム利用者の清水さん(写真左)

清水さん:子どもたちがスケボーをやっていて、カフェで自分たちで作ったものを、おしゃべりしながら美味しくいただいて……すごく明るくなって元気をもらっています。

篠崎さん:清水さんの味見は本当にすごいんですよね、プロ顔負け。

水川さん:そうそう、推し活もするし、これから新潟旅行にも行かなくちゃだし。

清水さん:こういう場所は、本当にないですよね。私、あっちこっち行ってきたから、わかる。もうぜったい、ここはいいところです。本当に感謝してます。

篠崎さん:いえいえ。こちらのほうが100倍、感謝してますから。

誰かと関わり、自分ごとになった瞬間、人はその人らしさを取り戻し、幸せを感じるのかもしれません。栗林荘の皆さんの温かな談笑の輪に加えてもらい、その気付きが確信へと変わる時間でした。

人がもう一度、誰かの役に立てる場所。栗林荘は福祉施設という枠組みを超えて、地域をつなぎなおす居場所になろうとしています。これが、本プロジェクトが長年考え続けてきた「地域にひらくこと」への、ひとつの答えなのかもしれません。

 


 

事業DATA

地域の一部となれ
特別養護老人ホーム栗林荘 大規模改修計画(第1回採択事業)

所在地:栃木県小山市塚崎463-1

実施事業団体:社会福祉法人丹緑会(にろくかい)
https://ritsurinsou.or.jp/
https://note.com/ritsurinso

設計事務所:合同会社わくわくデザイン
https://wkd.jp/

 


 

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