街にひらかれ、人々に愛される居場所へ。採択された2事業を発表[第5回 表彰式レポート]
Photo:川島彩水 Text:遠藤ジョバンニ
2024年春に公募を開始し、54団体から応募が寄せられた「第5回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」。本年度も審査の全工程を終え、助成対象となる2事業が決定しました。2026年1月22日(木)には、審査委員と事業実施団体の代表者を迎えて表彰式を開催しました。本記事では当日の模様をレポートするとともに、採択された事業の概要を紹介します。
里山に隣接する「ハナレ」で、親子を受け入れるショートステイ
作品名:みんなのハナレ ―療育に役立つ遊びの森と薪の湯屋付き―
事業実施団体:社会福祉法人ぷらうらんど
設計者:有限会社乾久美子建築設計事務所
申請ID:A-003063


ぷらうらんどは、高知県安芸郡を拠点に、児童発達支援や放課後等デイサービスなどを運営する社会福祉法人です。子育てに悩む保護者や子どもたちが、公民館や児童館のように気軽に立ち寄れる居場所となることを目指して、2つのエリアで地域に根差した福祉サービスを展開してきました。
今回の計画では、既存棟付近の里山の擁壁に沿って、新たに「ハナレ」と呼ばれる施設を建築します。このハナレでは、緊急性の高いケースを含む親子を受け入れ、障害のある子どもを対象とした単独型ショートステイと、宿泊型ペアレントトレーニングを実施。併せて、被虐待や不登校などの背景をもつ子どもたちが安心して過ごせる日中一時支援の機能も担います。
さらに、ハナレから里山へ直接アクセスできるようブリッジを設けることで、里山そのものが子どもたちの格好の遊び場に。発達支援の舞台に里山を組み込み、既存棟と連動した地域交流や防災、里山の保全活動へと広がっていく点が、このプランの大きな特徴です。
事業者コメント
喜びと同時に、責任の重さを強く感じています。地域の子どもたちを中心に据えながら、子どもたちの暮らしや未来が輝き、その先に地域の輝きが広がっていく。福祉施設が地域と溶け合い、草の根のように根を張っていく、そんな活動にしていきたいと思っています。法人職員一同、心より感謝を申し上げるとともに、建築設計を担ってくださった乾久美子先生とのご縁にも深く感謝しています。(社会福祉法人ぷらうらんど)
設計者コメント
ぷらうらんどさんとの応募は今回で二度目となり、昨年度は二次審査まで進みました。その後も議論を重ね、事業計画の見直しや、運営体制の検討をともに続けてきました。この「みらいの福祉施設建築プロジェクト」を通じて、双方に多くの学びを得たのではないかと感じています。建物が完成し、運営が始まってからが本番です。これまでに培ってきたことを活かしながら、次のフェーズへ進んでいきたいと思います。(有限会社乾久美子建築設計事務所)
高齢化する団地のふもとに、“隣人”がつどう複合福祉拠点を
作品名:下九沢団地ネイバーズ
事業実施団体:社会福祉法人愛川舜寿会
設計者:一級建築士事務所teco株式会社
申請ID:A-003101


愛川舜寿会は神奈川県愛川町で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人です。近年は高齢者福祉の分野にとどまらず、かつて街のにぎわいの中心だったスーパーマーケット跡地を活用した複合福祉施設「春日台センターセンター」などを展開。福祉を切り口に、人が集う文化拠点を手がけてきました。
今回の計画では、1970年に建設された相模原市の「下九沢団地」のふもとに、コミュニティスペース「下九沢団地ネイバーズ」を整備します。
高齢者向けの「小規模多機能型居宅介護」と、子ども向けの「放課後児童クラブ・放課後等デイサービス」を設置することで、団地に暮らす高齢者と、施設を利用する子どもたちとのゆるやかな交流を生み出します。また、下九沢団地近隣の里山も、子どもたちの遊びの場として活用される予定です。
加えて、コインランドリーや地域図書館、工房などを併設することで、地域の人々が自然に立ち寄ることのできる新たなコミュニティ拠点となることも期待されています。
事業者コメント
私たちの拠点である愛川町のほど近く、相模原市で痛ましい事件が起きました。その出来事を受け、私たちは防犯のために施設を閉じるのではなく、むしろ地域へ開いていく選択をしました。福祉事業者にとって、地域や社会との関係を築く手段として、デザインの力が不可欠であることを強く実感しています。団地そのものを変えるのではなく、そこに暮らす方々の「隣人」になっていく。その思いを、この事業名に込めました。次に続こうとする福祉事業者のモデルとなれるよう、力を合わせて取り組んでいきます。(社会福祉法人愛川舜寿会)
設計者コメント
愛川舜寿会さんとの思考の積み重ねは11年目を迎えています。ケアを基盤に、どのような暮らしへ向かって環境を整えるべきか、長年にわたり議論を重ねてきました。こうした対話は、建築はいかに立ち上がるべきかという、私たち建築家の根本的な問いにもつながっています。これまでの議論から生まれた結晶の一つであるこの計画の前進が確定し、大きな喜びを感じています。全国・世界の福祉事業者の取り組みに刺激をもたらし、建築家の志の持ちようにも影響を与え、さらには若き現場の人々や学生が夢を創造できるプロジェクトとなるよう、この採択を糧に、前向きに挑戦し続けたいと思います。(一級建築士事務所teco株式会社)
街にひらかれ、地域の人々に愛される福祉施設となるために
審査員を代表して木下庸子委員長は、総評で次のように述べました。
「今回の審査を通して、福祉施設が抱えている多くの課題を設計者が深く理解し、そこに知恵を尽くして提案された建築が、いかに社会的意義を持つかを改めて認識しました」
審査委員による各事業に対する個別の講評は、プロジェクトサイトに掲載しています。
https://fukushi-kenchiku.jp/#result
また、昨年実施された最終審査会(各団体のプレゼンテーションおよび質疑応答)の様子は、公式YouTubeチャンネルにて、全編ご覧いただけます。
第5回 日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト 最終審査会(プレゼンテーション)
https://www.youtube.com/watch?v=YeYI9yMJrSw
街にひらかれ、そして地域の人々に愛される福祉施設建築。その新たなモデルとなる2事業の挑戦が、それぞれの地域で始まります。
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