日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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申請にあたって、どんな工夫をしましたか?——これまでの採択事業者に聞く申請のヒント

2024年6月に第4回の公募を開始した「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」。申請期限(9/4)まで残り1ヶ月となりました。福祉事業者と設計者がお互いに協力し合い、議論を重ねて一つの事業プランを練る——そのプロセスは決して簡単なものではありません。

今回は第3回公募で採択された福祉事業者と設計者のみなさまに聞いた、申請で工夫したポイントなどをまとめました。まさに今、第4回の申請を練っている方、また次回以降の申請を検討している方も、ぜひ参考にしてみてください。

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▼過去のインタビュー動画も合わせてご覧ください
第1回〜第3回 採択事業者インタビュー(YouTube再生リスト)

福祉事業者コメント

Q.準備段階で、最も時間がかかったのは?

●土地を決める段階です。コストの問題もありましたし、私たちの事業と地域の活動がどうしたら連動していくかを踏まえながら検討していくプロセスに、いちばん時間を要しました。

●建物をどうするか以前に、福祉活動を地域にひらくにあたって「ここはどんな地域なのか?」を改めてチームで深堀りすることからはじめました。そこから申請まで7ヶ月間、みっちり議論を重ねました。

Q.設計者を選んだポイントは?

●対話を重ねる中で、熱量がマッチしたからでしょうか。自分たち(事業者側)に伴走してくれるかどうかを重要視してお声がけしました。

●今回がはじめての依頼でした。設計の会社として掲げていらっしゃった指針の内容が、私たちが考える「みらいの福祉施設」の理想像と一致しており、この会社しかないと思いました。

●はじめてお会いするところからのスタートでしたが、現地に足を運んでいただいて地域を共に歩き、たくさん話をしていく中で「この人たちなら、自分たちの思いを叶えてくれるかもしれない」と思えたことが決め手になりました。

Q.事業の魅力を伝えるために、努力を要した点は?

●軸となるコンセプトを導き出すまで、かなり苦労しました。コンセプトを掴み言語化してから、施設全体の設計をつなげていくことができました。

●住民のみなさんが運営している集まりに顔を出したり、利用者のみなさんからのご意見をうかがったりと、地域のみなさんとの対話を大切にし、法人の中だけで検討・判断しないようにしたことです。

Q.設計者とのコミュニケーションで大切にしていたことは?

●はじめに事業所の普段の様子を撮影した写真を共有して、利用者やご家族のみなさんの日常、その思いを知っていただくきっかけを作りました。足並みを揃えてプロジェクトに取り組むことが重要だと思います。

●お伝えしたいことは、できるだけ細かく言語化していました。言葉のやりとりだけではなく、事例の視察に同行いただいたり、参考にしている書籍などを共有したりしながら、共通言語を少しずつすり合わせていきました。


設計者コメント

Q.デザイン案を準備するにあたり、苦労したポイントは?

●予算の調整です。事業を維持していくための費用と、建物にかけられるコストの折り合いをつけるのに苦労しました。実現したいアイデアはたくさんありましたが、優先順位をつけて最終的に残すものを決めました。

●事業者の思いに強く共感したものの、それにふさわしい建築のあり方がなかなか描けない時期がありました。ただ悩みも正直にお伝えすることで、粘り強くさまざまな議論ができた気がします。

Q.発注者の意図をくみ取るために、工夫したことは?

●共に地域を見ることを大切にしていました。一緒に周辺の地域を歩いたり、地元の食べ物を食べたり、自分の内側から場所の空気を感じとることを意識していました。

●遠慮せず、わからないことは何でも質問をしていました。自分が理解したつもりでいることも、事業者視点だと捉え方やスタンスが異なる場合もあります。そうしたやり取りをたくさん重ねていきました。

Q.福祉施設の設計をする中で、気づいたことは?

●建築が、社会の障壁を強化してしまう側面もあるということです。逆に言えば、設計によってその障壁を溶かして、もう少し誰もが生きやすい社会を作ることもできると実感しています。

●高齢者向け、障害者向けなど特別にその人たちのための空間を作るのではなく、誰もが快適と感じるものを、みんなが同じように享受できるような場所が必要だと思うようになりました。

Q.事業者は、設計者にどう希望を伝えればよいですか?

●完全にコンセプトなどを固めてから設計者に依頼しなければならない、と考えないことでしょうか。多くの設計者はそれを望んでいないと思います。矛盾も含めて情報を伝えてください。建築デザインで、それを解決する方法があるかもしれません。

●事業の計画は形になるに従い変化するものです。建築もその影響を受けて変わっていくものですので、最初からかっちり決めるよりも、対話する時間を大事にしながら一緒に深めていくことをおすすめします。


事業内容はそれぞれでも、大切にしていることには共通点がある

採択された事業の内容や規模はそれぞれですが、福祉事業者および設計者のみなさまにお話を聞いてみると、協働するにあたってのスタンス、「みらいの福祉施設」をつくるために大切にしたことなどにはいくつか共通点があるように思います。

今回は第3回で採択された関係者のコメントをご紹介しましたが、第1回・第2回の採択事業者のインタビュー(動画)も掲載していますので、ぜひ合わせてご覧ください。

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第1回〜第3回 採択事業者インタビュー(YouTube再生リスト)

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また今回コメントをいただいた、「第3回 みらいの福祉施設建築プロジェクト」採択事業のみなさまについては、以下の記事でも詳しくご紹介しています。

▼まだ見ぬ未来に向けた「みらいの福祉施設建築」実現を目指して[第3回 表彰式レポート]

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