日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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【4年間のあゆみ】「みらいの福祉施設建築プロジェクト」が目指す“みらい”とは

2021年からスタートした「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」は、2025年現在、5回目の公募を行っています(申請締切:2025年6月13日)。今回は、本プロジェクトが試行錯誤を重ねながら関係者のみなさまと共にあゆんできた4年間を振り返り、改めて「みらいの福祉施設建築プロジェクト」が目指す“みらい”についてお伝えします。

現在の日本社会で改めて問われる、みらいの福祉のあり方

「みらいの福祉施設建築とは、具体的にどういうものだろう?」ーー本プロジェクト1回目の公募がはじまったとき、申請するための事業計画をどのように練っていけばいいのか、戸惑った事業者の方も多かったのではないでしょうか。

現在の日本では社会構造の変化に伴い、福祉のあり方が改めて問われています。日本財団はこれまで60年以上にわたり、福祉分野におけるさまざまな支援に取り組んできました。

だからこそ今、福祉のあり方を根本から見直し、みらいに向けてアップデートする必要性を強く感じるようになりました。福祉における建築デザインを重要な要素として位置づけ、みなさんと共に福祉と地域のみらいをつくっていくことを目指して、新たなプロジェクトを始動させることにしたのです。

既存のモデルケースがあるわけではない。はじめての公募なので事例もまだない。そんな状況にも関わらず、第1回の公募では非常に多くの申請をいただきました。現在の社会において、新たな福祉施設に対するニーズや期待値が高いことを改めて実感しました。

初開催、第1回表彰式の様子(2022年3月18日)

続々と開所を迎えている「みらいの福祉施設」

これまで採択された事業は現在、続々と開所を迎えています。2025年も、いくつかの拠点が完成し、事業の運営をスタートする予定となっています。

・2023年8月:「集落に繰りだす福祉 溶けこむ施設」((特定非営利活動法人 縁活/b.i.n木村敏建築設計事務所)
・2024年2月:「まち化する福祉施設 レンガの家」(特定非営利活動法人 かしわのもり/株式会社トコト一級建築士事務所)
・2024年3月:「体験型福祉施設『ボナプール楽生苑』」(社会福祉法人 新生福祉会/株式会社 伊東豊雄建築設計事務所)
・2024年5月:「深川えんみち」(社会福祉法人 聖救主福祉会/JAMZA一級建築士事務所)
・2024年5月:「BURANO OYAMA ー医療的ケアが必要な子どもたちと家族の欲張り拠点ー」(一般社団法人Burano/NIDO一級建築士事務所)

2024年までに開所を迎えた、第1回採択事業者のみなさん

採択された事業はそれぞれ、事業領域や規模、向き合っている地域課題が異なります。実際に完成した建築も多様で、同じものは一つとしてありません。

しかし私たちが本公募に期待している要素(参考:「みらいの福祉の例」)を、さまざまな捉え方、新しいアイデアでクリアしているといえます。

またどのプロジェクトも、事業者と設計者が徹底的に議論を重ねているうえ、利用者とその家族、地域で暮らす人たち、働くスタッフそれぞれと真摯に向き合っている姿勢が共通点として挙げられるように思います。

専門家が集い、議論を重ねてそれぞれの課題と向き合う日々

第4回までに採択された事業も、着実にプロジェクトを前に進めています。第3回からは日本財団が各事業の進捗状況に応じて、専門家を派遣する「デザインレビュー」を適宜実施。よりよい建築・空間の実現を目指して、共に議論を重ねています。

2023年以降に実施されたデザインレビューの様子。順に社会福祉法人抱樸(左上)、社会福祉法人大分県福祉会(右上)、社会福祉法人 道(左下)、医療法人 医王寺会(右下)

2回、3回と継続的に公募を実施するうちに、関係者と議論を深めて事業プランを練り直し、何度もチャレンジをしてくださる事業者の方が増えてきました。これまで採択された中には、2度目もしくは3度目の挑戦で採択されたという事業者が少なくありません。

「みらいの福祉施設建築プロジェクト」において日本財団が重視している点について、本プロジェクトの立ち上げおよび企画・運営を行ってきた福田(公益事業部 国内事業開発チーム)は、次のようにお伝えしています。

私たちは、何か新しい福祉のビジネスモデルを生み出したり、ランドマークとなる建物を増やしたいわけではありません。

本プロジェクトで重視していることは、大きく2つあります。1つは、福祉事業者と建築家が、それぞれの専門領域の知見をもとに議論を交わしていくプロセスそのもの。もう1つは、該当する地域の特性を読み解き、その地域が抱える課題と徹底的に向き合うことです。

3年目を迎えた今、リーダーが語る『みらいの福祉施設建築プロジェクト』の現在地」(2023年9月6日)より

公募の回数を重ねるうちに、残念ながら採択することができなかった申請者の方からも「不採択ではあったが、関係者との議論を深めることができた」「福祉のあり方について、改めて考える良い機会になった」という、前向きな声をいただけるようになりました。

まだ世の中にない「みらいの福祉施設」を生み出し、具体的な形に落とし込んで実際にプロジェクトを進めていくためには、長い時間と深いコミュニケーションが必要だと思います。非常に難易度が高いプロジェクトではありますが、申請のプロセスそのものが、事業者のみなさんにとって少しでも有意義な時間になっているなら幸いです。

広く福祉に興味・関心を持つ人たちが集い、考えるきっかけをつくる

また本プロジェクトでは、公募への申請を検討している事業者・設計者の方はもちろん、広く福祉に関心を持つみなさまと「みらいの福祉施設」について考えるイベントを、さまざま形で実施しています。

渋谷スクランブルホールにて開催した「みらいの福祉施設建築ミーティング ―フォーラム—」の様子。会場には150名、オンラインで140名が集まり、福祉施設と建築デザインの実践や、連携の事例を深く学ぶ場となった(2024年7月6日)

オンラインで開催した、福祉や建築に関わる専門家の視点を学ぶ「みらいの福祉建築ミーティング―スタディ―」の一場面(2024年7月26日)

複数の施設が開所した2024年からは、実際に現地を訪れる見学ツアーも実施しています。これからもさまざまな形で、「みらいの福祉」についてみなさんと議論を深めていく場をつくっていきたいと考えています。

第1回採択事業「深川えんみち」(東京都)で実施した「みらいの福祉施設建築ミーティング―ツアー―」の様子(2024年7月7日)

●それぞれのイベントの様子

<2023年>
【前編】みらいの福祉施設建築フォーラム報告(2023年6月24日)
【中編】みらいの福祉施設建築フォーラム報告(2023年6月24日)
【後編】みらいの福祉施設建築フォーラム報告(2023年6月24日)
・(動画)スタディDAY1 大規模特養のゆくえと、これからの特養の設計(2023年7月7日)
・(動画)スタディDAY2 『ひらくこと』と『暮らすこと』を同時に満たすーケアを必要とする人の空間と地域への開放性(2023年7月14日)
・(動画)スタディDAY3 多世代交流を促進する複合施設の計画方法ーまちをつくる福祉施設(2023年7月20日)

<2024年>
【前編】みらいの福祉施設建築ミーティング<フォーラム>報告(2024年7月6日)
【中編】みらいの福祉施設建築ミーティング<フォーラム>報告(2024年7月6日)
【後編】みらいの福祉施設建築ミーティング<フォーラム>報告(2024年7月6日)
みらいの福祉施設建築ミーティング<ツアー>報告(2024年7月7日)
みらいの福祉施設建築ミーティング<スタディDAY1>報告(2024年7月26日)
みらいの福祉施設建築ミーティング<スタディDAY2>報告(2024年8月1日)

「みらいの福祉」について真剣に考える場や機会を全国へ

2025年4月現在、「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」は第5回公募の申請を受け付けています。4年間にわたり、私たちが関係者のみなさまと共に取り組んできた活動、重ねてきた議論も、ぜひ申請する際のヒントに活用していただければと思います。

本プロジェクトを一つのきっかけとして、「みらいの福祉」について真剣に考える場や機会が増え、福祉のあり方についてさまざまな立場、視点からの議論が深まること、またその取り組みが全国へと広がっていくことを期待しています。

 


 

▼こちらも合わせてご覧ください(YouTube再生リスト)
第1回公募関連動画
第2回公募関連動画
第3回公募関連動画
第4回公募関連動画
採択事業者の声

 


 

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