日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト

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申請前だからこそ、立ち止まってほしい。3つの視点

Text:遠藤ジョバンニ

第5回「日本財団 みらいの福祉施設建築プロジェクト」の申請期限(6月13日)が迫ってきました。福祉事業者と設計者がチームで議論を重ねて作り上げてきた事業プランも、いよいよ大詰めです。いままさに、申請にむけて最後の仕上げに入っている方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな皆様に改めて、チームで考えてみてほしい「3つの視点」を質問形式でご紹介します。併せて過去の採択事例や、昨年・一昨年と開催されたフォーラムで語られた現場の声も紹介しています。

福祉事業者の代表者、現場スタッフ、設計者など関係者全員で申請資料を囲み、問いかけあいながら、この資料が「チームで導き出した答え」を余すことなく適切に反映できているかどうか、ぜひ本記事をワークシート代わりにご活用ください。次回以降の申請を検討している方にも参考になる内容です。

その施設は「地域」にひらかれたものになっていますか?

本プロジェクトが重要視し、たびたび審査の過程で議論される観点のひとつです。福祉施設建築には、必ず“地域”という文脈があります。福祉事業者のみなさんが普段活動している地域や、これから新たに施設を建てたいエリアの特徴を思い浮かべてみてください。どのような歴史があり、どのような人々が暮らしていて、そこにはどのような課題がありますか?

そしてそんな地域特有の課題を「みらいの福祉施設建築」で解決していくためには、その建築を「地域にひらく」必要があると本プロジェクトでは考えています。プロジェクトの特設サイト「"みらいの福祉"の例」では、施設と地域の関係について、以下のようにお伝えしています。

<全体(地域)>
●施設は地域を構成する一員であるという考えのもと、施設が地域ケアや地域の課題解決の機能を有する。
●利用者だけでなく、地域のために施設があるという認識のもと、施設に集う住民と利用者のつながりを生む仕掛けをつくる。
●地域住民が自然と施設に集まる仕掛けがあり、地域住民が施設を身近に感じたり、誇りに思うことができる。

「地域にひらく」ためにはプロジェクトを、建築や空間設計といったハードと、地域住民との関係づくりなどのソフトの双方から捉える必要があります。例えば、住民が利用するカフェを併設しさえすれば、その課題は根本からほぐれるのでしょうか。ただ壁をガラス張りにして、施設の中が見えるようにさえすれば、地域の一員として「地域にひらかれた」ものだと認めてもらえるようになるのでしょうか。

地域の課題やニーズ、それに対してチームなりに考えた建築のデザインや地域とのつながりかた。それが第三者にも伝わるよう表現されているか、考えてみましょう。

事例1:にちこれ(第3回採択、三重県松阪市)

「にちこれ」が建つ三重県松阪市では、住民の高齢化が進む中で医療依存度が高くなり、自宅に戻りたくても戻れない人が多数存在しています。その地域のニーズを受け、看護小規模多機能居宅介護施設や老人ホーム、多目的施設など、さまざまな機能を内包し、地域の人々が自然に集う複合型の施設を設計しました。

誰もが安心して居られるためにも、施設をひらいていくためにも、人数や居方に段階的に変化があり、選択肢があることが大事だな、と考えました。そしてそのグラデーションの中で、家族が一緒に居られる場所、地域の方が入ってこられる場所が、関わりの中で設定されていくと考えています。(設計者:株式会社パトラック 安宅研太郎さん)

▼詳細はこちら
https://fukushi-kenchiku.jp/article/20241006_1st.php

事例2:深川えんみち(第1回採択、東京都江東区)

高齢者デイサービスと学童保育クラブ、子育てひろばを含む複合型福祉施設「深川えんみち」。下町の風情が残る深川のまちで、1976年に幼稚園として建てられ、1994年からは斎場として使用されていた建物をフルリノベーション。この土地の歴史を踏襲しながらも、2024年5月に子どもたちと高齢者、そして地域の人々が行き交う場所としてオープンしました。

(深川えんみちが建つことに関して、地域からは)ネガティブな意見をほとんど聞きませんでした。「幼稚園の時にここを卒園しました」とか「斎場になってしまったけれど、またこどもたちの姿が戻って嬉しい」という声が多く聞かれました。「ここでお葬式を挙げた親戚がいました」と懐かしんでおられる方もいましたね。(福祉事業者:社会福祉法人聖救主福祉会 竹内陽子さん)

▼詳細はこちら
https://www.fukushi-kenchiku.jp/article/20241027.php

施設に関わる人、主体のものになっていますか?

採択されたプロジェクトは個性的なものばかりですが、いくつか共通する部分もあります。それが、利用者・スタッフ・地域住民など、そこに関わる“具体的な誰か”の姿が明確に想像できるようになっています。

"みらいの福祉"の例」では、以下のような項目があります。

●<スタッフ>施設で働くスタッフが誇りやいきがいをもって働くため、時代にあわせた組織運営(研修や情報共有、権限の移譲等)の仕組みを構築する。
●<全体(地域)>施設は地域を構成する一員であるという考えのもと、施設が地域ケアや地域の課題解決の機能を有する。
●<全体(地域)>利用者だけでなく、地域のために施設があるという認識のもと、施設に集う住民と利用者のつながりを生む仕掛けをつくる。
●<全体(地域)>地域住民が自然と施設に集まる仕掛けがあり、地域住民が施設を身近に感じたり、誇りに思うことができる。

例えば福祉サービスを利用している○○さん、スタッフの○○さん、近所に住む○○さん――。彼らを思い浮かべながら申請書類を眺めたとき、姿や声が浮かんでくるものになっているでしょうか。

事例1:あるきだす(第1回採択、滋賀県栗東市)

2023年8月に開所した「あるきだす」は、築100年を超えた古民家を改修した福祉拠点。就労継続支援B型で農作業を行う利用者の休憩所のほか、カフェ、イベントスペースなど、日本家屋の緩やかなゾーニングを生かして、さまざまな人々が、さまざまな関わり方で過ごせる居場所をつくろうとしています

福祉領域の課題を起点にするのではなく、自分もワクワクできることをしたいんですよね。そうじゃないと、関わる人が増えていかないでしょう? 自分たちの団体・組織を大きくしていくことよりも、おもしろがって関わってくれる人を増やしていくことが大切だと思っているんです(福祉事業者:特定非営利活動法人 縁活 杉田健一さん)

▼詳細はこちら
https://fukushi-kenchiku.jp/archive/4th/article/20240320_enkatsu.php

事例2:みらいの福祉施設建築ミーティングから

「居場所と参加のデザイン」をテーマにしたオンラインセミナー「みらいの福祉施設建築ミーティング スタディDAY1」より。ここではトークから一部を抜粋して印象的な箇所をご紹介します

(福祉事業者の)実務サイドがどんなに現場をよくしようと(みらいの福祉施設建築について)考えていても、ときに経営者から「無駄なスペースを省いて居室を増やして稼働率を高めろ」と言われてしまうことも往々にしてあると思います。しかし、どんなによい建物だったとしても、どんなに稼働率を高める効率的な空間を作ったとしても、それでは働く人は集まりません。(中略)このプロジェクトへの応募をきっかけに、法人内のソフト面のイノベーションが起こせるかもしれません。

▼詳細はこちら
https://fukushi-kenchiku.jp/archive/4th/article/20241024_1st.php

新しいものになっていますか?

日本財団は60年以上にわたり、時代の変化をいち早く捉えて福祉分野におけるさまざまな支援に取り組んできました。急激な速度で変化する現代社会では、現時点での社会制度・福祉制度では対応しきれないものや、制度のはざまからこぼれおちてしまい、支援が隅々まで行き届かないケースも少なくありません。

だからこそ既存の法定事業だけに留まらない、地域の人々が本当に必要としている福祉施設、目新しい福祉施設のあり方や仕組み、地域とのつながりかたを、みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。

竣工後、建築は10年、20年、30年後……もしかするとそれ以上に、人々の営みを見守り、地域の居場所となっていくポテンシャルを秘めています。どこかで見かけたものではなく、これからの社会に要請されるものを提案できているか、そして最適な建築設計になっているか。プロジェクトなりの「新しさ」がどこにあるのか見つめてみましょう。

事例1:希望のまちプロジェクト(第2回採択、福岡県北九州市)

「希望のまち」は、今後の社会で必要性が増すと予測される救護施設を核に、放課後デイサービスやコワーキングスペースなどの不特定多数の人々が訪れる場所を一体的に融合させた施設です。「家族機能の社会化」をテーマに、従来の社会システムや家族機能を街で担い、乗り越えていくことを掲げています

建築とは、モノではなくて出来事です。建築をつくることによって社会を変えられるということが、一番ダイレクトに現れるのが福祉施設ではないでしょうか。(中略)過去を見ながらつくる施設だけでは社会は変わらないので、前を見て、これからどうあるべきかを考えて仕事をしていきたいですね。(設計者:株式会社手塚建築研究所 手塚貴晴さん)

▼詳細はこちら
https://fukushi-kenchiku.jp/archive/3rd/article/dantai_07

事例2:みらいの家(第4回採択、石川県金沢市)

通所介護、地域包括支援センター、ボランティアマッチングセンターなどの複数機能を持つ「みらいの家」。従来のような集約型の高齢者施設から脱却し、慣れ親しんだ土地のなかで、自宅で暮らしながら気軽に支援を受けられる、サテライト型の福祉拠点。子どもたちや地域住民がつながる居場所としての機能も内包しています

少子高齢化が進む社会において「高齢者」や「高齢者施設」を一括りに語ることはできない時代へとさしかかってきています。(中略)なのでまずは「高齢者」の定義や「介護施設」のあり方を問いながら、プロジェクトプランを練り始めました。従来の「来てもらう」から地域に暮らす高齢者のもとへ「出かけていく」形式にシフトした、ケアの拠点「みらいの家」の構想はそこから生まれています。(福祉事業者:社会福祉法人中央福祉会 北元喜洋さん)

▼詳細はこちら
https://fukushi-kenchiku.jp/article/20250603_chuofukushikai.php

申請締め切りは2025年6月13日(金) 17:00まで

本プロジェクトで大切にしている3つの観点についてご紹介しました。
ぜひチームでの対話や振り返りの軸にしてみてください。

このほか審査で重要視する点は本プロジェクト特設サイトにも掲載されているほか、詳細な部分はよくある質問もご覧ください。

▼過去の採択事業者インタビュー動画
第1回〜第4回 採択事業者インタビュー(YouTube再生リスト)

また、助成金募集の申請のためには、日本財団助成ポータルへの登録が必要です。申請には団体登録のうえ、代表者本人確認と法人確認をする必要があり、申請期限の1週間前までに完了させてください。未登録の方はお早めにご準備ください。提出書類・詳細な申請方法は助成ポータルをご参照ください。

「みらいの福祉施設建築」の正解のかたちはひとつだけではありません。チームの個性が光る新たな「みらいの福祉施設建築」に出会えることを、楽しみにしています。

 


 

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